警備業界、警備会社、警備員における問題点   

2016年10月5日水曜日

警備業界 尊敬できない上司の命令で出動する昭和のサラリーマンたち

ニコニコニュース「警備業界 尊敬できない上司の命令で出動する昭和のサラリーマンたち」より


国内では盛り上がりに欠けるロンドンオリンピックだが、それでも日本のメダル獲得の期待が大きいのが柔道やレスリングだ。
柔道の中矢力選手、レスリングの湯元健一選手、高谷惣亮選手、吉田沙保里選手、伊調馨選手が在籍するALSOKは、正式社名を綜合警備保障という警備会社である。
綜合警備保障は、セコムに次ぐ業界第2位の警備会社。
1位と2位の2社だけで、日本の警備市場の30%のシェアを占めている。
今回は、警備業界について、キャリコネに寄せられた口コミを元に分析していこう。

市場規模は3兆円を超えたところで頭打ち

警備業界の市場規模は1990年には1兆円以下だった。
それがオウム真理教事件を経た1997年には2兆円を突破。
アメリカ同時多発テロ事件を経た2003年には3兆円を突破した。
そこまでは順調な成長だったが、その後の10年は一進一退を繰り返し、成長は完全に頭打ちになっている。

【警備ビジネスの市場規模】

市場で売上高が100億円を超える大手は5社しかない。
あとは売上高100億円未満の中小警備会社が999%を占めるというピラミッド構造だ。
警備サービスは、警備業務検定の合格者の配置を義務づけられているのは空港、原発、貴重品輸送、核燃料輸送、交通誘導など一部だけだ。
それ以外はアルバイト警備員でもかまわない。
例えば、ビルの「常駐警備」やイベント警備は、警備員の数さえ確保できれば、それこそ机と電話だけで開業できるビジネスと言ってもいい。
業界経験者や警察OBなどは独立・起業しやすい。
全国の業者数が9000を超えるのは、そのためである。
全国の警備員の数は2011年末で約53万人だ。(警察庁生活安全局「平成23年における警備業の概況」による)
もっとも、大学新卒者が応募するのは上場企業の上位5社が大部分だろう。
そんな大手は警報装置やITシステムを駆使した「機械警備」の比率が大きくなっている。
それは次の声が象徴している。

「業務内容は警備というよりもむしろ技術屋の色が濃く、内容は多岐に渡っているため簡単な仕事ではない」(セコムの20代前半の男性社員)

警備会社に総合職で入社した新卒の主な業務は、スーツを着て企業や家庭にセキュリティシステムを提案して売り込む営業活動だ。
それは見た目も勤務形態も他の業界のサラリーマンとほとんど変わらない。

給料は悪くないが長時間勤務が辛い仕事

まずは、警備会社についての誤解を解いておこう。
警備会社とは「犯罪と戦う正義のヒーロー」ではない。
それは次の口コミからもわかる。

「最初は、安全を守る企業と感じて入社しましたが、警備業法で、警報が鳴っても駆けつけるまでの時間が結構長くても良かったり、犯人と出会っても戦ったり捕まえたりしなくてよかったりするので、結局は安全を守れるわけではないのでは?」(綜合警備保障の20代後半の女性社員)

本物の窃盗犯や放火犯に現場で遭遇して、危険な目にあったという体験談の口コミも見られた。
しかし、犯人を逮捕したのは警察だったという。
警備業界は10年ほど前まで高成長を続け景気が良かったせいか、大手は企業規模が大きく給与水準や福利厚生もそれなりに良い。
そのため、サービス業ではイヤと言うほど聞かされる「給料が安い」「働きに報酬が見合っていない」というボヤキは、この業界の正社員に関してはあまり聞こえてこない。

「毎月残業代がかなりの額であった為、同年代と比べると幾分多くもらっていたと思います。総合的に、給与面では不満はなかったです」(セコムの20代前半の男性社員、年収450万円)

20代で結婚し、子供もいないという状況であれば比較的高給の部類に入るかもしれません。年収400450万。しかしながら30代後半でも年収は変わりません。役職がついたとしても500万を超えることは考えにくいです。30代後半で400万円台前半の社員は数多くいます」(綜合警備保障の20代後半の男性社員、年収510万円)

ただし、「夜勤があって勤務時間が不規則」「残業が多い」という声は、現場や現場に近い部署からよく聞かれることだ。

「支店によっては、ハチャメチャなシフトを組まされたりします。昼過ぎに出勤して次の日の昼前まで勤務が続き、さらにその夕方からまた出勤になっていたりと。暇で睡眠がとれれば、まだマシなんだけど、ふつうに忙しいと文字通りふらふらになります。自動車事故がおそろしいです。健康面も」(セコムの20代前半の男性社員)

36時間連続勤務という信じられない制度があり、そのハードさ故か離職率も相当高いです」(綜合警備保障の30代前半の男性正員)

綜合警備保障の別の社員からも36時間連続勤務後のクルマの運転は怖いという声は聞かれた。

中間管理職に不満が集中 「尊敬できる上司はいない」
 
警備業界で目立つのが、社内の人間関係、特に上司との関係が悪いという口コミである。
警備の現場ではリーダーを「隊長」と呼んでいるように警察や消防や自衛隊のような軍隊的階級組織で、指揮命令系統は明確かつ厳格だ。
各員はトップダウンの意思決定を迅速、正確に下に伝え、行動させなければならない。そうでなければ業務に支障をきたす。
おそらく体育会系の雰囲気に慣れていればなじみやすいだろう。
現場はそれでいいのだが、問題なのは、そんな組織のメンタリティが「ネクタイ組」とも呼ばれるホワイトカラーの職場にも持ち込まれていること。
例えば、こんなイベントだ。

3の倍数月は強化月間と称し、ノルマが倍増。特に12月は社員一人当たり7千円の『参加費』を払い、決起大会なるものが開催され、決意表明、商品名を唱えながらのダンスなどが、盛大におこなわれる」(セコムの20代前半の女性社員) 

軍隊的な組織は危機の時には強いが、中間管理職が部下の言うことには耳を貸さず、上意下達のみ、無理な命令もおかまいなしで、人の好き嫌いを露骨に口にし、時にはパワハラに発展するような人物を生みやすい。

「トップダウンがすごいので中間管理職の荒み方が激しい。上から言われたことを10倍にして下に流す。こんなやり方は本意じゃ無いんだけどしょうがないかな?」(セコムの30代前半の男性社員)

「この会社は、パワハラ・イジメがあります。気に入らない人が居れば、言葉・態度など攻撃してきます。(略)効率が悪く度々残業しました。効率化を上司に言っても、聞く耳無し。率直に言うと、労働環境は良くないです」(CSPの元社員の20代前半の女性)

「社風は、社会主義国家のよう。職場に活気はなく、悲壮感が漂っている。小さな問題ともいえないような問題をつっつき、問題を起こした本人を血祭りにあげる。そのあと、直属の上司を処分する。尊敬できるような上司はいない」(綜合警備保障の20代後半の男性社員)

この業界は男性中心社会なので女性ががんばっても管理職登用は少なく、経営幹部まで昇りつめる人はほとんどいないという。
女性管理職が比較的多いセコムでは、女性社員からこんな不満があがった。

「女性の上司が多いからこそ、この職場は雰囲気が悪く、過ごしにくい職場になっているのだと思う。管理職の女性はあまり尊敬できる人がいないためみんながなりたいと思うものでない」(セコムの20代後半の女性社員)

「女の敵は女」ということなのだろうか。

ゴマすり、年功序列、天下り昭和の影をひきずる社風
 
警備各社は「上司にゴマをすった者が出世する」という、「昭和」の影を引きずる社風も特徴的だ。
当然、社員も、その体質に染まってしまう。
そのため、ゴマをすって昇進した中間管理職は、部下がゴマをすることも暗に求めるものらしい。

「社内試験があるが、結局は上司に気にいられている者が出世する。どうしても出世したいのならば、上司に媚を売り自分を捨てて、毎日ペコペコするしかない」(綜合警備保障の20代前半の男性社員)

「上司にクセのある人物が多く、部下はいかに上司に気に入られるかで出世が決まるきらいがあり。実力だけではなかなか上には登りつめることは難しい」(東洋テックの20代後半の男性社員)

「上司に気に入られるのが近道でしょう。また、部下の手柄を自分の物にしたり、他人を蹴落として自分が上に上がるのもあります」(CSP30代前半の男性正社員)

次の話は、別の意味で「昭和的」だろう。

「出世は完全に順番待ちだと感じました。上の人が外れるとそのポジションに次の人を上げるという感じです。実際、先輩で、『お前を課長にするにはまだ早いと思ったけど、ポジションが開いたから』と言われた人がいました」(セコムの30代前半の男性正社員)

警備会社の社員の間であまり評判がよろしくないのが警察OBの天下り幹部。
ふつうのお役人と違って身柄の拘束など公権力を行使する立場だっただけに、民間に行っても頭の中身はなかなか切り替わらないようで、特権を求める人もいるらしい。

「経営陣が創業者一族と天下り、イエスマンしかいないので、ごく一部の上層部だけが過剰に高額な報酬を得ている」(綜合警備保障の30代前半の男性社員)

なかには、こんな会社もある。

「自衛隊や警察の天下りでないと出世は見込めない」(CSP20代前半の男性正社員)

新卒で入り、現場からたたき上げで育ったたベテラン社員は、やりきれないだろう。

成長神話は終焉 残るは低価格競争と淘汰だけ
 
昭和30年代というと、最近は映画「ALWAYS 三丁目の夕日」のようにノスタルジックに語られることが多い。
だが、実際は暴力団や愚連隊や不良生徒が我が物顔に街をのし歩き、強盗や窃盗が多発する殺伐とした社会だった。
それが日本に民間の警備業が誕生したきっかけで、ケネディ暗殺(要人警備)、東京オリンピック(イベント警備)、三億円事件(現金輸送警備)が警備業界を大きく成長させたといわれている。
だが平成20年代の今、成長神話は終わった。
警備にカネをかけるべき建物やイベントや企業活動には、ほとんどサービスが行き渡っている。
その上、街頭の監視カメラ設置が進んだことなどで、犯罪発生件数が昨年までの5年間で224%も減少。
導入の動機という点から見ても警備業界の今後の成長は望み薄だ。
それでも企業秘密や個人情報を守る情報危機管理、高齢化社会に対応し安全、安心を提供するホームセキュリティなど、有望分野はある。
しかし、それはハイテクを利用するため、機械警備を自前で運用し研究開発に取り組めるような大手の話だ。
常駐警備など昔ながらの労働集約型の分野は、過当競争の中小業者が受注価格を叩きあって限られたパイを奪いあいながら、淘汰が進んでいくだろう。
人材派遣業やビル管理会社など異業種からの参入も相次ぎ、首位のセコムが5位の東洋テックに資本参加するなど業界再編に向けた動きもある。
大手のシェアは今後も伸びると思われるが、新規案件が小型化して価格競争も厳しいので利益率はむしろ低下しそうだ。
それは、働く社員たちも覚悟している。

「規模が縮小しながらも会社自体が倒産ということはまずありえません。主取引先が金融機関であるため急激な業績の悪化も考えにくいでしょう。しかし飛躍的に業績が伸びるということも考えづらい」(綜合警備保障の20代後半の男性社員)

警備業界は今後、よほど大きな技術革新が生まれるか、多角化で高収益が望める分野に打って出ない限り、社員の待遇や労働環境の向上はあまり望めないといえるだろう。

2012/7/12
(木)15:50 キャリコネ

*「キャリコネ」は、社員が投稿した企業に関する口コミ、年収情報、面接体験などを共有するサイトです。20126月末現在、45万社、18万件の口コミが登録されています。

ニコニコニュース「警備業界 尊敬できない上司の命令で出動する昭和のサラリーマンたち」より

警備会社元職員の内部告発

「入管収容施設問題を考える、アリさんとジェインさんのホームページ」より


以下の記録はCさん、30歳代男性、警備会社「アイム」の元職員の証言です。
200087日に行なわれた記者会見の席で語られた内容を入管問題調査会でまとめたものです。
警備会社アイムは、成田空港で入国拒否された外国人の身柄を預かり、「上陸防止施設」まで移送する仕事を、航空会社から請け負っている警備会社です。

チュニジア人2名に対する暴行事件 / 航空署によるもみ消し

2000620日に事件(アイムの職員が、そのチュニジア人2名を殴ったりして、警備料を支払わせた事件)があり、21日に私は事件を知った。
すぐさま防止施設にいって、通訳を介して事情を聞いた。
訴えを起こしたいなら私たちが手続きをします。と私はそのチュニジア人に言った。
本人は「訴えたい」と言った。
そして詳しい申立書を書き、代理の人に空港署へ持っていってもらった。
空港署の警察官に事情聴取をしてもらったら、警察発表では、そういうこと(暴力事件)はなかったといったという。
私が聞いた話とは食い違っていた。
お金を返してもらったという領収書がある。
会社が書いて入管に提出した顛末書もある。
今回のチュニジア人の件では航空署が調査に入った段階で、あわてたアイムは警備費用の全額を本人に返している。
航空署の警察官が「訴えを起こせば長期間収容される」と脅し、「事件はなかった」とする陳述書を本人に書かせて帰国させた。
そのあと本人らは本国の日本大使館に申し立てをして、法務省の知るところとなった。

暴行は日常的だった

このチュニジア人のケースばかりでなく、暴行は日常的だった。
私自身が暴行をふるったこともある。
ビンの割れる音がして血だらけになった中国人の話も聞いたことがある。
JALでオーストラリアから来たイギリス人(レストハウス302号室)が薬を飲んで自殺をしたこともある。
送還途上の人で、頭がおかしくなっていて、もっと会社は注意をすべきだった。
ポケットの中のものを検査して、取り上げるべきだった。
この自殺の件は成田空港署も調査している。

恐喝まがいの警備費用の取り立ては会社の方針

暴行は日常茶飯事で、私は我慢して働いてきた。
精神安定剤を飲まなければ、やって行かれないようになっていた。
会社の方針として、何が何でも、たたいてでもお金を取れと言うことになっている。
本来、上陸防止施設に宿泊する場合の警備料金は 2 4000円、レストハウスに宿泊する場合は3万円、おとなしい人が相手なら4万円も5万円もふっかけてとる。
こういう警備会社は成田だけではない。
こんな会社は、排除していただきたい。
24000円と言う金額は、発展途上国の人にとっては大金である。
中には借金してきている人もいる。
だから、払えと言うと抵抗する。
私たち取り立ての場面には、上司が必ずいる。
上司に「とれない」と報告すると、「そこにおいとおけ、私が行くから」と言う。
はじめは言葉で説明する。
航空会社に負担はかけられない、と言うのが会社の考えだ。
殴りたくもないのに、殴らざるを得ない。
上司のやり方を見ていると、わざと本人(入国拒否を受けた人)の神経を逆なでするような態度をとる。
紙で顔を突っついてみたりする。
夜に長時間寝かさずにおいたりする。被収容者は精神的に参ってしまう。

アイムの契約先は、航空会社である。

警備会社に対しては、「本人からお金が取れるときは、取ってください」ということになっている。
うちは入管での取り調べの通訳もやっている。
取り締まり月間(週間)の対象国は、特定の国に対して特に取り締まりを強化する。
中国人や韓国人がその対象である。
取り締まり強力週間は年間3回ぐらい各1週間ある。


取り立てた警備費用の行方
本人から受け取った場合は24000円、航空会社に請求する場合は12000円、がアイムのものとなる。
本人がお金を持っていれば、本人から取ってください、と航空会社からいわれている。本人から取った方が、アイムとしては収入が多い構造になっている。
レストハウスに宿泊した場合はたとえば、500ドル預かって、3万円を警備費として取り、食費などレストハウスの宿泊費を支払ったうえで、残りを本人に返すということをする。
レストハウス等の「上陸防止施設以外」で留め置くときは、警備費用(いわゆる廊下での見張り費用)としてお金を請求する。
JALとアシアナは、1時間警備員1人あたり1500円、その他の航空会社には1時間2000円の割合で請求する。

上陸防止施設の管理、密室での暴行

(注:上陸防止施設は全国で4カ所。成田に2カ所、関空に2カ所、他にレストハウスがある。)
昨年の6月末までは、アイムは成田の上陸防止施設の管理をしていた。
そのときの話である。
居室に上陸拒否をされた外国人を閉じこめ、飲み水を出さず、電気を消して放置する、といった対応をしたことがある。
これも上司の命令である。
こちらから一方的に机をぶつけてみたりする。
ここ(上陸防止施設)ではソファーのある「休憩室」でよく暴行を加えていた。
現在、(昨年19997月以降)ではアイムは降ろされ、上陸防止施設の管理は「協和警備」がやっている。
ペルー人の自殺未遂者の事件もあった。
アメリカン航空のダラスからの便で到着した人である。
剃刀で自殺を図った。
見つけたとき、壁にも血が飛び散っていた。
止血だけして病院にもつれていかず、医者にもみせず、入管にも、報告はしなかった。
いきなりおかしくなって暴れ出した人もいた。
シーツでぐるぐる巻きに、手を縛った。
私自身の殴った回数は5回ぐらいである。
「ちょっと手伝ってくれ」といわれて殴ったこともある。
お金の問題で暴行がおきる。
初めて会った人だから恨みがあるわけではない。

アイムの控え室が暴行の現場

現在のアイムの仕事は、入管の入国審査を終えた外国人の身柄を預かり、上陸防止施設やレストハウスまで連れて行くの間の警備と、警備費用の取り立てである。
入管から身柄を預かると、第二ターミナルの地下に連れて行き、そこで車に乗せ、第一ターミナルの時計台のところにある駐車場棟2Fの「控え室」に連れて行く。
そこで暴行を加える、というのが昨年の7月以降アイムが行なっている暴行である。
暴行は7時・8時以降の夜に行なわれる。
その時間だと、航空会社の人も概ね帰っているので聞かれる心配がない。
上陸防止施設の管理をしていた頃は、そこは密室なので、昼もやっていた。
国籍を選んで暴行を加える。

国籍を選んで暴行を加える

アメリカ人や先進国の人たちに対しては、大使館がうるさいのでやらない。
シンガポール航空は客を大事にする。
「客から取るな」と航空会社からいわれている。
それでもアイムはお金を取って、シンガポール航空の職員には会わせないようにして送り返す。
つまり客からとって、航空会社からもとって、二重取りとなる。
航空会社の職員も承知しているはずだ
航空会社の人たちは、こうした実態を薄々知っているはずだ。
とくにJALの控え室はすぐ近くにあるから知らないはずはない。
JALの女性なんか、しょっちゅう「いくら持ってました?」などと聞いてきた。
「あの人は頭に来たから、お金を取っちゃってください。」とJALの職員からいわれたこともある。
お金を徴収するというのは、航空会社にしてみれば手間のかかることだ。
本来航空会社のやることである。
それを私たちがサービスでやって、上乗せをとっているということだ。

「入管収容施設問題を考える、アリさんとジェインさんのホームページ」より

国際警備保証事件 組合支部長雇い止め事件で勝利!

水戸翔合同法律事務所・代表的取扱事件「国際警備保証事件」より


さる9月11日、水戸地裁は、国際警備保障株式会社が労働組合支部長に対してなした雇い止めを権利の濫用として無効と判決しました。
水戸地裁は、平成23年10月26日をもってした労働組合の支部長の雇い止めについて、「本件雇止めは,時間外手当の請求をする原告を退社させることにより別訴を有利に進めようという意図が窺える」として、同人が労働契約上の地位を有することと、雇い止めされた以後の期間分の賃金を支払うことを認めたものです。
この事件は、平成24年8月24日、国際警備が同年10月26日をもって、当時労働組合の支部長であった佐藤修さんを雇い止めする旨通告したことから始まりました。
当時は、ちょうど佐藤さんを始めとする組合員が残業代を請求して水戸地裁で勝訴判決を得、控訴審で和解の話し合いが行われていた時期でした。
佐藤さんの雇い止めは、国際警備から具体的な和解案がまさに提示されんとする時期のことで、佐藤さんにとっては不意打ちのことでした。
しかも、国際警備が雇い止めの理由に挙げる内容は、業務上のささいなミスであったり佐藤さんのみの責任にすることのできないようなものばかりで、それまでの間、佐藤さんは業務上特に目立った注意を受けるようなこともありませんでした。
佐藤さんは、半年間の契約期間を15回更新し、勤続8年となるベテラン警備員で、警備員仲間でも頼りにされる存在だったのです。
このような原告の主張をほぼ全面的に酌んだ今回の判決は、当然の結論ではありますが、労働者が正当な権利行使を行おうとする動きを無法な手段で押さえつけようようとしても、法的には通らないということを示した判決で、茨城県のみならず全国の警備員、さらには労働者を励ますものです。

2013.9.12 弁護士 丸  山   幸  司)

水戸翔合同法律事務所・代表的取扱事件「国際警備保証事件」より

判例 割り増し賃金を基本給に含む約束

東京労務管理総合研究所労働時間の相談「判例 割り増し賃金を基本給に含む約束 (20051月号より抜粋)」より


時間外手当込みと認められない

警備員の待機時間が労働時間に該当するという判断は、多くの裁判で支持されています。
しかし、会社側には、最初に「こういう勤務内容で、これだけの賃金を払います」と説明していたのだから、労働者も納得のうえで契約を結んだはずだという思いがあります。
時間外・深夜割増賃金はすべて基本給に含む約束だったという会社側の主張は、認められないのでしょうか。

K警備保障事件 大阪地方裁判所(16331判決)

新入社員が1ヵ月残業を繰り返した後、時間外手当を請求したら、社長から「当社では『時間外手当込み基本給制』を採っている」といわれてびっくりしたなどという話を聞きます。
毎月、一定の時間外労働が存在するのを見込んで、最初から基本給の額を決めてあるというのです。
この社長さんの主張が通れば、労務管理はぐっと簡単になりますが、もちろん、そうはいきません。
本事件では、15時間の夜勤に就く警備員の労働条件が問題になりました。
警備ですから、勤務の大部分は異常の発生に備える待機時間です。
会社は15時間分の賃金を丸々払う必要はないと判断しました。
そこで、15時間のうち、5時間を便宜的に休憩時間とし、深夜勤務に該当するのは3時間と定めました。
休憩時間の割り振りを一応決めましたが、実際の勤務状況はこれと大きく異なっていました。
そこで、警備員側はすべての時間について待機の義務が課せられているのだから、15時間全部が労働時間に該当すると主張しました。
これは、最高裁(大星ビル事件、平14228判決)をはじめ、各種判決で支持されている見解です。
本件大阪地裁も、「アラーム警備業務の場合は、制服を着用し、担当するユーザーの鍵の入った鞄を常に携行し、出動の指示があった場合には、即座にこれに対応しなければならず、特段出動の指示等や異常を発見しない限りは、車内で仮眠等をすることも可能な時間帯ではあるが、労働からの開放が保障された休憩時間ということはできない」と述べ、労働時間と認定しました。
結局、食事等に要する2時間を除いた13時間が労働時間と判定され、時間外・深夜に該当する分については割増も含め、賃金支払が命じられています。
しかし、会社としては、勤務内容と賃金を明示したうえで契約を結んでいるのですから、後から全部の時間について賃金を払えといわれても、承服できません。
そこで、夜勤者の賃金には「最初から、時間外手当や深夜手当を含む約束があった」と反論しました。
これに対し、裁判所は「労基法の制限を超える労働時間を定めて、その賃金が時間外労働割増賃金を含むものであると労働者と合意しても、これは労基法の潜脱であって、その効力を認めることはできない」と断じています。
ですから、通常の勤務者についても、「時間外手当込み基本給制」などという乱暴な制度は、当然、認められません。

東京労務管理総合研究所労働時間の相談「判例 割り増し賃金を基本給に含む約束 (20051月号より抜粋)」より

2016年10月4日火曜日

セキュリティーの明日を担う人材の確保に向けて~警備業雇用高度化懇談会報告書の概要~



労働省発表 平成9年9月19日(金)
「産業別雇用高度化懇談会」の報告書(概要)について
~魅力ある職場づくりと人材の確保・育成に向けて~より


<課題と雇用高度化策のポイント>

○ 優秀な人材の確保・育成に向けた賃金、労働時間等基本的な労働条件の整備による魅力ある職場づくり

○ 行き過ぎた価格競争からの脱却

 (雇用高度化策)    ↓  

経営者による雇用管理全般に関する取組の強化
警備員の人材確保システムの整備や能力、業績主義の徹底
サービスに関する品質標準・料金体系の整備
ユーザーへの働きかけと警備業の重要性・有用性の社会へのアピール

警備業は社会の安全を担うセキュリティー産業として、過去30数年で急成長を遂げ、現在では2兆円を越える市場規模に発展している。
さらに、今後の産業・社会の高度化の進展や高齢化社会の到来などに伴い、一層の成長と市場の拡大が見込まれている。
しかしながら一方で、警備料金を巡る過当競争や警備業に対するユーザーや社会の認識の低さ等に起因する警備員の低賃金や長時間労働、また、大部分を占める中小零細企業の経営者自身が雇用管理に対して高い認識を持っていないことなどが隘路となり、優秀な警備員の確保が困難になっているなど様々な問題を抱えている。
そこで、現在の警備業が直面している雇用管理上の問題点への対策として以下のような検討を行った。

1 経営者の意識、業界の改革

(1) 基本的な労働条件の整備、職場に魅力を持たせる取組

経営者は雇用管理改善を経営の最重要課題として十分認識することが求められる。
とりわけ、警備業は人が最大の財産であり、各企業としては将来の経営ビジョンを持ち、人を大切にする魅力ある職場づくりを進めていくことが大きな経営課題として求められる。
また、業界団体としても、雇用管理の近代化や体質改善のための指導、支援を行うなど業界の健全な発展に向けた一層の取組強化を図ることが重要である。

(2) 警備業務の質的向上、高付加価値化

中小の業者の中にはユーザーとのコンタクトを特に重視し、各々の現場の特性に応じたサービスが提供できるよう、警備員の個別、具体的な指導を徹底的に行っている企業もみられる。
過剰な価格競争に走るのではなく、業務の質的向上や高付加価値化に努めることが企業の体質を強め、警備員の待遇改善にもつながるものと考えられる。

(3) 業務の効率化、生産性の向上の追求

人が配置されていることが前提とされている職場においては、完全な省力化は難しいものの警報関連機器の導入などによって、業務効率の向上や警備員の負荷の軽減を図ることは可能である。現実に機械化に努め、業務効率向上によるコスト削減を実現している企業もみられるところであり、各企業においても良質かつ安価なサービスの提供をめざしたこうした取組を一層強化すべきである。

(4) サービス品質標準、料金体系の整備

個々の企業においてはユーザーに対し、現場の特殊性やユーザーの要望を考慮しつつ、きめ細かくサービス内容やグレードを決定し、それらに応じた料金体系を提示し理解を得ることが重要である。
業界団体としても企業の自由競争を前提としつつ、ユーザーによりわかりやすい統一した品質標準や料金体系を整備することが必要である。

(5) 業界団体をはじめとした業界全体の取組

サービスの差別化、多様化や水準の向上、さらにはその品質標準、料金体系の整備といった課題の解決のためには、セミナーや講習会等を通じた業界内部の指導、経営者教育の徹底をはじめとした業界全体の取組が必要不可欠である。

2 警備員の資質等向上対策

(1) 人材確保、育成、活用への取組強化

各企業としては、警備の質的向上や労働条件の改善を図り、優秀な人材の確保に努めることが重要である。
また、法定教育と合わせて各企業の業務実態に対応した行き届いた教育を常時徹底することが、サービスの品質を維持する上で不可欠である。
女性の活用については、更衣室の整備や勤務時間帯の調整等ユーザーの理解を得つつ女性の受入れ体制を整備することが必要である。
さらに、警備員の採用については、警備員の質的向上のために人材確保システムの整備や警備員の採用説明会実施など業界一体となった採用活動の強化等について検討することが必要である。

(2) 従業員活性化策の充実

警備員が意欲と誇りをもって活き活きと働けるような各種活性化策の検討・充実が必要である。
警備員の業務遂行能力や業績により的確に評価し、優秀な警備員については年齢、勤続年数等を問わず、高い資格、役職を付与するなど、能力、業績主義をより徹底、充実することなどが活性化策として挙げられる。

3.社会的評価の確立

(1) 業務の質的向上を通じたユーザーとの信頼関係強化

警備業においては社会的な評価が低いという問題が挙げられているが、第一に警備業務の質的向上と警備員自身の資質向上に努める中で、各企業がユーザーとの信頼関係を強めていくことが重要である。

(2) 料金適正化への働きかけと契約内容明確化

警備業務の質的向上を図る中で、現状の料金体系の見直しと合わせて警備料金水準の適正化についてもユーザーの十分な理解を得ることが必要である。
業界全体としても警備業契約の適正化、明確化に向けてモデル契約の策定や客観的基準に基づいた積算方法の開発、入札価格適正化への取組、優良事例の収集及び普及システムの構築等について具体的検討を行い、その成果の普及、啓発を図っていくことが必要である。

(3) 警備業の重要性、有用性の対外的アピール

警備業や警備員に対して実態以上に「3Kイメージ」が強いなど誤った認識や誤解がある場合があり、業界団体を中心として業界全体はそれらを是正するための対外的なアピールを強化すべきである。

4 個別業務別(警備業法第二条による分類)に見た主要な問題点の改善

施設警備──安全管理体制の強化、休憩時間の取扱等労働時間の定義や管理の明確化、機械化による省力化や業務効率化の一層の推進など

雑踏警備──警備員の就業環境を含めた契約内容の明確化、徹底した教育・指導、中高年や女性の活用、短時間労働者の有効活用や処遇の改善など

輸送警備──業務効率化のための機械化の一層の推進、教育訓練の徹底、防護用具や機械の整備等事故発生を極力回避するための体制整備など

身辺警備──労働時間等警備員の労働条件の整備、教育訓練の徹底、安全機器の導入などによる安全管理体制の強化など

機械警備──料金の適正化、サービスの質的向上、業務の効率化による労働時間短縮の推進、能力主義、実績主義的な人事制度の導入など

(警備業雇用高度化懇談会メンバー)

阿 部 四 郎 (全日通労働組合 東京分会警送地域協議会 執行委員長)
荒 井 勝 彦 (熊本大学法学部 教授)
磯 部 行 雄 (日本労働組合総連合会 組織対策局部長)
小 野 成 力 (綜合警備保障(株) 取締役人事部長)
木 村   清  ((社)全国警備業協会 常務理事)
佐 野   哲  (日本労働研究機構 研究員)
高 柳 正 弘 (セコム(株) 人事担当取締役)
田 中   要  (星光ビル管理労働組合 組合長)
富 岡 國 明 ((株)全日警 専務取締役)
奈 良 照 雄 (大星ビル管理労働組合 執行委員長)
依 光 正 哲(座長) (一橋大学社会学部 教授)

第1回懇談会  平成8年3月29
第2回懇談会  平成8年4月25
第3回懇談会  平成8年5月29
第4回懇談会  平成8年6月20
第5回懇談会  平成8年7月18
第6回懇談会  平成8年9月13

(五十音順敬称略、役職等は当時のもの)

労働省発表 平成9年9月19日(金)
「産業別雇用高度化懇談会」の報告書(概要)について
~魅力ある職場づくりと人材の確保・育成に向けて~より


2016年10月1日土曜日

交通誘導警備員の有罪判決を考える

(警備保障タイムズ 「交通誘導警備員の有罪判決を考える」より 2013/8/21)

交通誘導警備員の有罪判決を考える(前編)

交通誘導中の女性警備員に対し刑事責任が科せられた判決に関する早川氏(神奈川県警備業協会・前専務理事)の講演を7月1日号で報じたところ、小紙への問い合わせが相次いでいる。
事故の過失責任が認定されたことは警備業界にとって大きな衝撃となっている。
そこで今回、早川氏に寄稿してもらった。
裁判の状況、業界として講じるべき対応策について上下2回に分けて掲載する。【早川正行(前・神奈川県警備業協会・専務理事)】

禁錮1年執行猶予4年の判決
 
はじめに

平成25年3月4日、交通死亡事故の刑事裁判において、横浜地裁川崎支部の荒川英明裁判官は、交通誘導に従事する警備員とドライバーの過失が重なったことで事故に発展したとして、警備員とドライバーに対し執行猶予付有罪判決を言い渡した。
警備員は、水道工事が行われている交差点付近において、同僚警備員と共に片側交互交通規制に従事し、その最中に発生した死亡事故について、クルマと歩行者に対する交通誘導に過失があったとして事故の過失責任が認定された。
ハンドルを握っているドライバー以外の警備員にも刑事責任を認定したのである。
交通事故訴訟の専門家である高山俊吉弁護士は、朝日新聞の取材に対し「事故は工事がなくても起きえた。
誘導員の罪が問われるケースではなく、量刑も重すぎる」とコメントしているように、今回の判決は極めて異例である。
本件有罪判決が警備業界に与えた衝撃は大きく、警備員教育のあり方を含めて、全国の警備業関係者から問い合わせが多い。
この種の判決文は公刊されないことが多いため、どのような証拠により、本件判決が導き出されたのかは不明であるが、裁判を傍聴した者として、裁判官が有罪判決の心証をどのように形成し、判決に至ったのか経緯を考えてみたい。
この事故により、亡くなられた3歳の男児に対しては、心からご冥福をお祈りするものであるが、本稿は、純粋に刑事責任について考察するものであることをご理解いただきたい。

事故の概要

平成24年1月13日午前10時ころ、川崎市麻生区上麻生2丁目、市道の交差点において、横断歩道を母親のやや後ろを歩いていた3歳の男児と、交差点を右折進行してきた乗用車が衝突し、男児は頭部を強打して事故から約2か月後に死亡した。
現場は、信号機のない交差点で、水道工事が行われており、警備員2人が片側交互交通規制により交通誘導を行っていた。
クルマは、警備員の交通誘導に従って交差点を右折して横断歩道に差しかかり、歩行者の母子も警備員の誘導に従って横断歩道を歩行しており、警備員は、クルマと歩行者双方への重複した誘導により事故を誘発したと判断されたものである。
検察官は、平成24年12月27日、ドライバーと警備員の過失の競合により死亡事故に発展したものと認定し、双方を起訴した。

判決

加害ドライバー:禁錮1年8か月(求刑に同じ)執行猶予5年
交通誘導警備員:禁錮1年(求刑に同じ)執行猶予4年

交通状況の把握が欠如と指摘

裁判の状況

⑴警備員に対する尋問

ア、身上関係

48歳の既婚の女性警備員で夫も以前同じ警備会社に警備員として従事し、当該警備会社には、平成23年3月から勤務している(警備会社は警備業協会に加入していないため、事前の情報は皆無であった)。
夫の証言によると、まじめな性格で、事故後、極端に落ち込み、自分が代わりに死ねばよかったと自分を責め、自殺の恐れがあった(裁判中も終始泣いており、自分の責任として後悔している様子が認められた)。
運転免許を有している。
事故後、警備会社を解雇されていない。

イ、 過失関係

道路の片側を工事中のため、片側交互交通規制を男性警備員と2人で行っていた。男性警備員とは6㍍から7㍍離れていた。
右から加害車両が来た。
相手の男性警備員が進行OKの合図をしたため、加害車両に進行の合図を送り、横断歩道の手前で一時停止したのを見て、母子に横断歩道の進行を合図した。
横断歩道は、歩行者優先であるため、歩行者を通しても加害車両は一時停止するだろうと思った。 
その直後に、母親の悲鳴を聞いた。
加害車両が発進したのは見ていない。
衝突の瞬間も見ていない。
どこを見ていたのかわからない。
加害車両が停止したので見ていなかった。
加害車両をしっかり見ていればよかった。
素手で歩行者に進行の合図をした。
加害車両が止まっていても、歩行者に明確に合図するべきであった。
加害車両の動きも歩行者の動きもよく見ていなかった。
警備員は、自分の携帯で119番した。
加害ドライバーはクルマの中にいた。
その後、加害ドライバーは「あんたが誘導したんだろう」と怒鳴っていた。

ウ、裁判官の指摘事項

目撃者の供述によると、女性警備員は、普段から誘導灯を腰の高さで、ただ振っていた。
周囲の状況を全く確認していなかった(目撃者とは水道工事関係者と思われる)。
交互交通規制の相手方警備員の動静のみに気を取られ、警備員として現場の交通状況を把握するなど肝心なところを見ていない。

⑵加害ドライバーに対する尋問

ア、身上関係
 
飲食業を営む55歳の男性。
競馬法の前科を有し、窃盗罪で懲役刑有り。
妻が情状証人として出廷。
事故後、12日間逮捕、留置された。
事故後、スピード違反で検挙された(遺族が導法意識を問題視)。

イ、過失関係

警備員の〝進め〟の合図で進行したところ、横断歩道を歩いて、渡り終わる寸前の老人を認め、一時停止した。
ピタッと止まった記憶はない。
時速10キロくらい。
老人は、警備員の合図を無視して渡ってきた。
周囲に歩行者はおらず、母子には気がつかなかった(周囲の安全不確認)。
歩行者が居れば警備員が止めると思っていた。
一時停止に近い徐行の後、正面の安全確認を怠り、正面から子供を轢いてしまった。車の右前輪で轢いた。
捜査機関の実況見分は、工事が終わってから行っており、裁判官が、再度、法廷で警備員の合図をどこで見たのかを確認した。
事故後、加害ドライバーは、警備員の合図が悪いとずっと言い訳していた。
たまりかねて、母親が加害ドライバーの携帯電話を取り上げて119番した。
子供は泣いていた。

ウ、裁判官の指摘事項

老人が、警備員の合図を無視して横断歩道を渡ったことについて、警備員の合図がアテにならないことを加害ドライバーに諭す。
横断歩道上の母子に気がつかないまま、横断歩道の手前で、一時停止に近い状況から発進し、正面から子供を轢いてしまったことを確認した。

⑶遺族の証言
 
制服も用意し、幼稚園への入園を楽しみにしていた。
両親も子供の将来を楽しみにしていた。心身ともに健康であった。
事故以来、地獄の日々が続いている。
「運転手と警備員は、何をしていたのか。孫はかえってきません」と祖父が怒りの証言をした。

交通誘導警備員の有罪判決を考える(後編)
 
川崎市で交通誘導中の警備員とドライバーの競合により死亡事故に発展したとして、双方に執行猶予付き有罪判決が言い渡された。
これを受けて早川正行氏(神奈川県警備業協会・前専務理事)に寄稿してもらった。今回はその後編。
警備員教育の在り方、適正な警備業務の実施だけでなく、弁護士の選任など裁判所の判断を得られるような法律的観点による対策も必要になるだろう。【早川正行(前・神奈川県警備業協会・専務理事)】

交通誘導に関する最高裁判決

判決の基礎と認められる最高裁判例

昭和48年3月22日、最高裁判所は、交通事故による業務上過失傷害事件について、私設の交通誘導員が行う自動車の誘導における手信号は、法的根拠がなくとも一般社会通念上の信頼の原則によって有効であるという趣旨の判決を言い渡し、私設の交通誘導員の指示に従う義務を認定している。
昭和48年に愛知県で起きたこの事件は、土木工事責任者から委託を受けた女性誘導員Aが、赤旗と白旗を用いて交差点の北方方面で交通誘導に当たっていたところ、東方方面から交差点にさしかかった車両Bは、Aが赤旗により交通規制を行っていたのを認め、北方方面の車両は一時停止するものと考え、交差点に進入した。
ところが、Aの赤旗の止まれの合図を無視して交差点に進入した車両Cと衝突し、車両Cの運転手が頭蓋骨骨折の傷害を負った。
この事件で、一審の犬山簡易裁判所、控訴審の名古屋高裁は、交通整理の専門家ではない私人の自主規制は時として過誤を生じやすく、これを過信することはすこぶる危険であるから、女性誘導員Aの規制があっても、交差点に進入する車両Bは北方からの安全確認義務が免除されるものではないとして罰金20万円の有罪判決を言い渡した。
しかし、最高裁はこの判決を覆し、交通誘導員の誘導を信頼して進行した車両Bのドライバーを無罪とした。

裁判官の心証形成(推察)

最高裁判所の判例を踏まえ、交通誘導員は交通事故を未然に防止するための交通誘導を行う義務があるところ、本件(川崎市の死亡事故)警備員は、クルマに対しても歩行者に対しても明確な合図を行うことなく、クルマと歩行者それぞれの判断に任せる形で交通誘導を行っている。
いわゆる明確な交通誘導を行わなかったために発生した事故と認め、有罪の心証を形成したのではないか。

さらなる警備員教育の徹底を

本件(川崎市)事案の反省

      目撃者の証言から、普段の交通誘導に対する「信頼」がなく、警備員は水道工事の作業員からも信頼がなかったのではないか。

      警備員として3社目であるが、しっかりした警備員教育を受けていない可能性がある。
起訴状は、現任教育を1年に1回行っており、警備員教育に問題はないとしているが、裁判官、検事、弁護士の警備業法の不知により争点とはなっていない。

      片側交互交通という難しい誘導を、自信がないためか、相手方男性警備員の指示により行い、常に、相手方男性警備員を見ていた。
そのため、周囲の安全確認に対する注意が認められない。

   クルマに対しても歩行者に対しても明確な合図を送っていない。

   水道工事は、工事業者の競争が激しく、工事の請負料金が安いため、警備料金  
も低く抑えられる傾向にあることから、警備員の士気が低かったのではないか。

むすびに

本件の裁判は、女性警備員に3歳の男児を死に至らしめたという贖罪の意識が強い。そのため、検察官、弁護士、裁判官という法律の専門家が警備員の行為に対する法律的な解釈を行うことなく審理が行われている。
そのことから、本件は極めて情緒的な判決といえよう。
警備員の誘導にも問題が認められる。
しかし、それにもまして横断歩道の手前で一時停止に近い状況から発進し、正面から子供を轢いているドライバーの過失を吟味した場合、警備員の誘導とは別の要因が生じており、事故の原因は100%ドライバーの過失にあることは明白であろう。
今後、この種の事件が発生した場合は、優秀な弁護士を選任し、法律的な観点から裁判所の判断を得るべく努力する必要を感じる。
業界としては、この裁判の反省点を踏まえ、このような不幸な警備員を出さないための警備員教育が求められる。
女性警備員の「生活は苦しいけれど、警備員のような人の命に関わる仕事はもうしたくありせん」という証言は、業界として重く受け止め、対策を講じていかなければならない。

全国警備業協会事務局のコメント

このたびの事故は、警備員相互の連携が十分にとれていなかったことが一つの原因だと思われます。
私共警備業は、人々の安全・安心を確保する生活安全産業であり、社会の信頼なくしては成り立ちません。
全国警備業協会といたしましては、今回の事故を重く受け止め、二度とこのような悲惨な事故を起こさないためにも、各警備業者における警備員教育の更なる徹底を図り、より適正な警備業務の実施に鋭意努めて参りたいと思っております。

(警備保障タイムズ 「交通誘導警備員の有罪判決を考える」より 2013/8/21)

仮眠時間の労働時間性を否認する画期的な最高裁判決

(HRプラス社会保険労務士法人 「仮眠時間の労働時間性を否認する画期的な最高裁判決」より 2014/11/20)

https://www.officesato.jp/column/?p=181

ビル管理業や警備業は夜間勤務がつきものですが、仮眠室において8時間の仮眠時間が与えられていても、警報が鳴るなどすれば直ちに所定の業務を行わなければならない場合においては、労働基準法上の労働時間に当たる、という最高裁判決が重くのしかかっていました。(大星ビル管理事件最高裁一小 平14.2.28判決 労判822号5頁)
これはもう、動かざること山の如し、と思われるほどの大変重い最高裁判決ですから、これまでビル管理業や警備業における「仮眠時間」は労働時間に他ならない、という諦めにも似た定説と考えられていたのです。
ところがこの山が動きました。
官公庁のビル管理や警備業務をビソー工業(埼玉)が業務委託された宮城県立がんセンターの警備業務における賃金等請求控訴事件で平成26826日、最高裁は上告を棄却し、仮眠・休憩時間がすべて労働時間であるとの主張を退け、警備員らの請求を棄却したのです。
仙台地裁は警備員らの主張を認め一部時間外労働などの賃金とこれに付帯する利息の支払いを命じる判決を言い渡しましたが、仙台高裁は、仮眠・休憩時間が一般的、原則的に労働時間に当たると認められることはできず、実際に作業に従事した場合の時間外労働として、その時間に相当する未払い賃金を請求することができるに留まるとしました。
これを受けて警備員らは上告したが、最高裁はこれを棄却し、高裁判決が確定しました。
担当弁護士は、次の通りコメントしています。
控訴審においてまず留意したいことは、警備員の労働実態をなるべく詳細に明らかにし、仮眠・休憩時間中に実作業に従事する必要性が生じることが皆無に等しい状況であったことを裏付けることであった。
具体的には、警備員の1日の勤務内容(勤務ローテーション)と警備員が主張する仮眠・休憩中の時間外労働の内容を分析し、そもそも仮眠・休憩時間を中断してまで従事する必要があった作業はほとんどないこと、大半の作業は、仮眠・休憩時間の開始、終了前後の時間に行われており、警備員は仮眠・休憩時間を継続して取得し、労働から解放されていること、仮眠時間を中断している場合も、中断してまで行う必要のない業務であったことなどを、87件の事例について詳細に主張したものである。
判決では、会社側の詳細の主張について、ほぼその通りに認定され、仮眠・休憩時間中の実作業に従事する必要性が生じることが皆無に等しい状況であったとの結論に至っている。
以上のように会社側の主張が認められたわけですが、この判例は、詳細かつ具体的な事実の積み上げによって山は動くことを教えてくれています。

(HRプラス社会保険労務士法人 「仮眠時間の労働時間性を否認する画期的な最高裁判決」より 2014/11/20)