警備業界、警備会社、警備員における問題点   

2017年1月12日木曜日

厚労省が都道府県労働局に通達


警備保障タイムズ「厚労省が都道府県労働局に通達」より 2016/2/11


警備員確保へ支援強化

厚生労働省は2月4日、都道府県労働局に対して「警備業人材確保対策の実施」を通達した。
警備業の有効求人倍率が他業種に比べて高いことや、東京オリンピック・パラリンピックでの警備員不足が見込まれることから、支援強化を図ることとした。
全国のハローワークでは今後、求職者へのパンフレットの配布など警備業務のPRや警備業への就業希望者への働きかけが強化される。

ハローワーク パンフ配布


公共職業安定所(ハローワーク)を中心に行われる対策は、求職者と求人者(警備会社)それぞれへの支援から構成される。

求職者への支援では、警備業での就業経験がない人で、警備業での就業に興味があるものの経験や資格を持たない人に、警備業に関するパンフレットの配布やセミナーなどの開催で、警備業務への理解を深めてもらう。
使用するパンフは、警備会社や警備業協会などが作成したものを用い、パンフは求めに応じ窓口などハローワーク内に備え置く。
セミナーは、警備業の仕事内容や就業の際の心構えなどをテーマとし、警備業への理解促進や就業希望者が増加するよう努める。
また、警備業未経験者や長期の職業上のブランクのある人には、「予約制」や「担当者制」を活用したきめ細かな職業相談や職業紹介などの支援を行う。
一方、警備会社には、求人受理の際に業務内容や深夜勤務の頻度などの労働条件、教育訓練や福利厚生面などの求人条件について十分聴取し、求職者の希望収入や希望勤務時間などの資料を提示するなど、求人条件が可能な限り求職者のニーズに沿ったものとなるよう助言や指導を行う。
また、求人が充足しない原因として、賃金や勤務時間などの求人条件が求職者の希望条件に満たない、求人票の記載が不明確――などが考えられることから、(1)求職者が希望する条件(2)実際に充足した(成功した)求人条件の情報提供(3)成功事例に基づいた求人条件の設定や変更の提案(4)分かりやすい求人票作成への相談・援助――などを行う。
さらに、警備会社のニーズに基づき、同求人に適合すると判断される求職者を選定、応募の意思を確認した上で警備会社に紹介するなど、求人側からの能動的なマッチングを推進する。
このほかにハローワークでは、現場見学会や小規模の就職面接会なども開催するとともに、事業所の雇用管理改善の指導や援助なども行う。
社会保険については、ハローワークに申し込まれる求人に、厚生年金などへの加入が適正な内容で明示されるよう、加入の確認と指導を行う。
これまで同省は、人手不足が深刻な「介護」、「保育」、「看護」などの業種にも同様の対策を実施してきた。
警備業については依然として他業種に比べて有効求人率が高いことや平成32年開催の東京五輪を見据えて今回の対策に踏み切った。
今後、同対策の実施に当たっては、都道府県警備業協会など地域の関係団体と連携して行っていく。

警備保障タイムズ「厚労省が都道府県労働局に通達」より 2016/2/11



人材確保 魅力ある職場を作る

警備保障タイムズ「人材確保 魅力ある職場を作る」より 2016/4/1


警備員の人手不足が深刻だ。厚生労働省によると、今年1月の全業種の平均有効求人倍率は1.28倍で、前月より0.01ポイント上昇。
警備業については平均を大きく上回り、中でも2号警備は20倍を超えているという。
2号警備業務をメインとする企業の経営者からは、次のような声が聞かれた。
「ハローワーク(公共職業安定所)中心に求人をかけているが、2~3か月に1人の面接希望者があればいい方だ」
「入社する人数より辞める人の方が多い。昔から長く勤めてくれていた警備員が高齢や体調不良で退職する率が高くなった」
「募集広告の効果がない。求人票の文面について警備保障タイムズの見出しからヒントを得るなど、工夫を凝らしていく」
リーマンショックの翌年、2009年の有効求人倍率は0・46倍まで下がったが、警備業はこうした不況時に雇用が活発化し、雇用の下支えの部分を担ってきた経緯がある。
しかし、今後は人材確保のために違う流れを作らなければならない。
厚生労働省は、警備業の有効求人倍率が高い状況や2020年東京五輪・パラリンピックで警備員の不足が予想されることから、警備員確保への支援を強化することにした(2月11日号1面)。
ハローワークを中心に、都道府県警備業協会などと連携し警備業についてのパンフレット配布やセミナー開催などを行う。
社会保険未加入問題における労務単価の上昇同様に、人材確保についてもこれから“追い風”が吹きそうだ。
警備業界がこの好機に目指すべきことは“魅力ある職場づくり”だ。
「働きやすさ」と「働きがい」が警備員の労働意欲、定着率を高め、結果的に会社の業績向上につながる。
警備業の中でも2号業務は、厳しい職場環境にある。
例えば時期によって発注量に波があったり、過酷で危険な場所の勤務が多く労災事故が起きやすい。
現場への直行直帰で人材育成が図りにくく、土日出勤やシフト制など勤務時間が一定ではない、という状況だ。
そうした中にあって「警備員重視」の職場環境へのシフトが、より求められている。
適正料金確保による賃金アップの他にも方法はある。
検定資格をとらせ“自分が期待され役に立っている”という意識を持ってもらう。
現場への配置はできるだけ本人の希望を尊重したり、職場環境について提案制度を設け警備員の意見に耳を傾ける、警備員の意見を経営計画に反映させる、といった取り組みが挙げられる。
長時間労働に対しては今後、労働基準監督署の指導が一層厳しくなる方向で、今こそ雇用管理全体を見直すときだ。
警備員の処遇・職場環境の改善を図る経営者に対し国から支給される助成金があり、大いに活用してほしい。
厚生労働省のサイトで「中小企業向けの職場定着支援助成金」をはじめ、詳しく紹介されている。
“魅力ある職場づくり”は“魅力ある求人条件”につながる。
多くの求職者に応募してもらい、質の高い人材を見つけて業績を伸ばすことが、業界全体が社会からの信頼を得ることに結びつくだろう。【瀬戸雅彦】

警備保障タイムズ「人材確保 魅力ある職場を作る」より 2016/4/1

http://kh-t.jp/thinking/thi-2016apr.html



2016年12月31日土曜日

不正行為の抜け道を作るな!

警備保障タイムズ「不正行為の抜け道を作るな!」より 2015/3/21

http://keibihosho.blogspot.jp/2015/03/blog-post_21.html

法令遵守

2号警備を主業務とする警備会社A社から耳を疑いたくなるような話を聞いた。

「自主廃業したはずの警備会社が他県で業務再開している」。これだけであればよくある話だ。
しかし、その後に続く話で不穏な空気を察した。

「A社同様、2号警備をメインとするB社は廃業するという。そこでA社は、B社所有の資機材やトラックなどを購入。また、B社社員、さらにはB社社長も受け入れた。元社長には警備員指導教育責任者として警備部門の責任者を任せていたが、立入検査の直前に退職。同時に元B社社員も退職した。立入検査のために書類を確認してみると、警備員名簿など法定備付書類は作成していなかった」。

A社のみから聞いた話なので明確なことは言えないが、B社元社長の行動は計画的なもではないだろうか?

そこで、B社の登記簿を入手してみると驚くべきことが判明した。
まず、自主廃業とされていたが、会社は解散・清算されておらず存続していた。
そして、A社を退職する3か月前に他県に本店を移している。本店移転の際に取締役は全員入れ替わっており、B社元社長の名前はない。
さらに同時に辞めたB社元社員が取締役に名を連ねている。

繰り返すが、A社への取材と法人登記簿を調べた範囲での事実関係を列記したまでである。
不正・不法行為だと断定できるものは何もない。
しかしながら、自主廃業を持ちかけて資機材の売買代金を受け取り、社長はじめ社員を雇用してもらいながらも立入検査前に退職する。
しかも、自主廃業せず、退職する3か月前から他県に本店移転させていたという実態を照らし合わせると、疑わしい行為といわざるを得ない。

自主廃業が抜け道?

過去にも似たような事案がある。
平成25年、違法な警備員派遣を繰り返した都内のC社は、労働者派遣法違反で東京地方検察庁に送検され、起訴猶予となった。
都公安委員会はC社社長と取締役に対し、警備員指導教育責任者資格者証などの返納命令を予定していた。
ところが、C社社長は警備業の認定証を自主返納、会社の整理に入ったことで法人への行政処分ができず、旧経営陣個人への処分に留まった。

平成26年には、新任教育の実施簿に虚偽記載があったとして福井県内の警備会社が警備業法違反の疑いで書類送検された。
この時も県公安委員会に警備業の認定証を返納、自主廃業した。
これにより、法人への行政処分が実質的に不可能となった。
 
この2つの事案では、認定証返納、自主廃業することで法人への行政処分を免れたことが共通する。
先の事案では、行政処分は受けていないものの、処分を見越して立入検査前に退職している。
資格者証の自主返納、会社の自主廃業、自主廃業を持ちかけ資機材の売買代金を受け取り、他県に移転する。

処分を受ける前に〝自主的〟に対処する。
その〝自主的〟には前向きな意味はまったく込められておらず、意図や目的が悪質だ。
冒頭、不穏な空気を察したと記したが、「自主的に、先回りして逃げる」と感じたからだ。
このような事案が増えるたびに、手口が巧妙になることが懸念される。
自主廃業が法律の抜け道となるのではないだろうか。
悪質な前例を作らないためにも、警備会社の法令遵守を徹底させる必要がある。

警備保障タイムズ「不正行為の抜け道を作るな!」より 2015/3/21

http://keibihosho.blogspot.jp/2015/03/blog-post_21.html

2016年10月7日金曜日

最高裁、上告を棄却 仮眠・休憩時間は労働時間外

警備保障タイムズ「最高裁、上告を棄却 仮眠・休憩時間は労働時間外」より 2014/9/21

http://keibihosho.blogspot.jp/2014/09/blog-post_37.html

警備員らの請求退ける

官公庁のビル管理や警備業務を行うビソー工業(埼玉、戸張四郎社長=当時)が業務委託された宮城県立がんセンターの警備業務における賃金等請求控訴事件で8月26日、最高裁は上告を棄却。
仮眠・休憩時間がすべて労働時間であるとの主張を退け、警備員らの請求を棄却した。【新野雄高】

賃金支払い求め労働審判

宮城県立がんセンターに勤務する警備員8人は平成22年2月、勤務先のビソー工業を相手取り、未払いの賃金並びに時間外・深夜割増手当、付加金など総額約5300万円の支払いを求める労働審判を仙台地裁に申し立てた。
同社は平成19年4月、がんセンターとの業務委託契約に基づき、従前の受託企業に雇用され就労していた警備員11人を引き続き雇用し労働契約を締結した。
警備員らは賃金の引上げや有給休暇の完全取得などの実施を求め同社と交渉、労働基準監督署への申告を繰り返した後、8人が休憩と仮眠時間中も拘束されるが労働時間外として賃金は支払われていないと訴えた。
労働審判は3回の審理を経て、審判官は一部時間外労働について申立人1人あたり12万円を同社が支払うという和解案を提示したが、これを申立人が拒否。
通常訴訟に移行することとなった。

仙台地裁、主張認める

仙台地裁は平成24年1月25日、警備員らの主張を認め、一部時間外労働などの賃金とこれに付帯する利息の支払いを命じる判決を言い渡した(ただし、損害賠償、慰謝料などの請求は退けた)。
同社は①仮眠・休憩時間は労働から解放された時間にあたるかは、その時間に実作業に従事した割合ないし頻度から客観的に判断すべき②原告らの主張する「最高裁大星ビル管理事件判決」(右下記事参照)は、警備員が仮眠時間中1人で待機し警備業務などに従事していたもので、本件は4人体制で2人ずつ交代制で休憩・仮眠をとっているため事案を異にする③実際、休憩・仮眠時間についた実作業への従事割合は極めて低い④仙台労働基準監督署の指導を受けた際、休憩・仮眠時間の割増賃金の不払いの指摘を受けたことはないの4点を主張した。
判決では、実作業に従事していない時間が労働時間に該当するかは、使用者の指揮命令下に置かれていたと評価できるかにより、客観的に定まると解される。緊急時、実作業に従事することが義務づけられている場合、それが皆無に等しいなど実質的に義務づけられていないと認められる特段の事情がない限り、労働基準法上の労働時間に当たるべき(最高裁大星ビル管理事件判決)との判断を示した。
 
仙台高裁は範囲限定

同社は平成24年1月、仙台高裁に控訴。警備員らは休憩・仮眠時間中といえども、待機が義務づけられ非常事態に備えて緊張感を持続しておく必要があることから、時間外労働として割増賃金並びに損害賠償金の支払いを主張。
平成25年2月13日、仙台高裁は次のように判決を下した。
仮眠・休憩時間が一般的、原則的に労働時間に当たると認めることはできない。
実際に作業に従事した場合の時間外労働として、その時間に相当する未払い賃金を請求することができるに留まるとした。
 
原告側が上告

仙台高裁の判決を受けて警備員らは上告したが、8月26日、最高裁は上告を棄却。高裁判決が確定した。なお、上告受理申立ても認められていない。
本件の上告理由は、違憲及び理由の不備・食い違いをいうが、実質は事実誤認または単なる法令違反を主張するものであって、民事訴訟法318条1項または2項に規定する事由に該当しないとの判断が最高裁より示された。

皆川潤弁護士のコメント

私は、本件控訴審から訴訟を担当したので、以下は控訴審からの視点でのコメントである。
控訴審においてまず留意したいことは、警備員の労働実態をなるべく詳細に明らかにし、仮眠・休憩時間中に実作業に従事する必要性が生じることが皆無に等しい状況であったことを裏付けることであった。
具体的には、警備員の1日の勤務内容(勤務ローテーション)と警備員が主張する仮眠・休憩中の時間外労働の内容を分析し、そもそも仮眠・休憩時間を中断してまで従事する必要があった作業はほとんどないこと、大半の作業は、仮眠・休憩時間の開始、終了前後の時間に行われており、警備員は仮眠・休憩時間を継続して取得し、労働から解放されていること、仮眠時間を中断している場合も、中断してまで行う必要のない業務であったことなどを87件の事例について詳細に主張したものである。
判決では会社側の詳細の主張について、ほぼその通りに認定がされ、仮眠・休憩時間中の実作業に従事する必要性が生じることが皆無に等しい状況であったとの結論に至っている。
本件では、実際に警備を行っている病院からは、契約条件の解釈などビソー工業の主張に対して否定的な見解が出されていた点を懸念材料と考えていたが、上述の通りの具体的労働実態の分析結果が、より重要なポイントとなった。
本件控訴審判決は、特殊な具体的事情が裁判所に理解された事例的な判断であり、同様の訴訟においては、いかに具体的な事情を主張できるか、その前提としての日々の業務実態を把握できているかが重要であると考えられる。

戸張四郎ビソー工業代表取締役会長の談話

今般の最高裁決定は、当然の結果と考えております。
一審の地裁判決が事実認定を誤り原告の主張を丸呑みしたことには憤りを禁じえません。
しかし、控訴審の高裁で休憩・仮眠時間中の時間外労働など事実を詳細に検討した上での判決には満足しており、弁護団の努力の賜物です。
今般の一審判決が当たり前とされるのなら警備業界の経営に与える影響は計り知れません。
また従業員をこのような訴訟に扇動した独立系労働組合があったように聞いております。
真摯に運動に取り組む多くの労働組合にとっても大変迷惑なことだと思います。

大星ビル管理事件(割増賃金請求控訴事件)

裁判年月日:平成8年12月5日、東京高等裁判所

ビル管理会社の従業員は、ビル設備の運転操作、ビル内巡回監視などに従事。
毎月数回、24時間勤務に従事し、その間、仮眠時間が連続8時間与えられていたが、仮眠室に待機し、警報が鳴るなどすれば直ちに所定の作業を行うこととされ、そのような事態が生じない限りは睡眠をとってよいことになっていた。
24時間勤務に対しては泊まり勤務手当を支給し、突発的作業等に従事した場合のみ、時間外手当及び深夜手当を支給していた。
従業員は、仮眠時間は現実に作業を行ったかにかかわらず、すべて労働時間であり、労働契約に基づき仮眠時間に対し時間外勤務手当を、深夜の時間帯に対し深夜就業手当を支払うべきと主張。未払い賃金などの支払いを請求した。

原審は、①仮眠時間は労働時間に当たるとした上で、労働契約上時間外勤務手当などを支給する合意はなかったとして、従業員の請求を全面的に認容した一審判決を変更し、②仮眠時間のうち変形労働時間制のもとで法定労働時間を超える部分及び労働基準法上の深夜労働に当たる部分についてのみ割増賃金の支払いを命じた。

最高裁は①仮眠時間は労働基準法上の労働時間に当たるが、労働契約上はこれに対して時間外勤務手当を支給する合意はないとした上で、②労働基準法上の時間外労働に当たる時間には割増賃金を支払うべきであるところ、管理会社が採用する変形労働時間制が〝労働基準法32条の2〟の要件を充足しているかについて原審は判断しておらず、また変形労働時間制が適用されることを前提としても、その時間外労働の算出方法は是認することができない。
この部分についての原審の判断部分は法令の解釈適用を誤った違法があるとして破棄し、原審に差戻しを命じた。

労働基準法32条の2(1か月単位の変形労働時間制)
 
1か月単位の変形労働時間制とは、夜間勤務者や隔日勤務者の他に、月初め、月末、特定の週などによって業務の繁閑差がある事業の労働者について利用される制度のこと。

労使協定または就業規則、その他これに準ずるものによって、以下の事項を定めて所轄の労働基準監督署長に届け出なければならない。

1.1か月以内の一定期間を平均し、1週間あたりの労働時間が法定労働時間を超えないこと
2.対象となる労働者の範囲
3.変形期間(1か月以内)および変形期間の起算日
4.変形期間の各日および各週の労働時間
5.労使協定(労働協約である場合を除く)による場合はその有効期間

警備保障タイムズ「最高裁、上告を棄却 仮眠・休憩時間は労働時間外」より 2014/9/21

http://keibihosho.blogspot.jp/2014/09/blog-post_37.html

2016年10月6日木曜日

「解雇無効の判断」と「不法行為該当性の判断」を特に区別せずに逸失利益を判断した裁判例

厚生労働省・第7回 透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会(平成28年6月6日)より

  
テイケイ事件(東京地判H23.11.18労判104455

【解雇の種類】・普通解雇

【請求内容】・不法行為に基づく損害賠償請求(逸失利益賃金2年分相当額、他の行為も合わせた慰謝料140万円)

【判決】・一部認容(逸失利益賃金34週分相当額(以後相当期間にわたって勤務していた可能性が高い、再就職が困難))、慰謝料請求は棄却。

・以上のとおり、被告が本件解雇に係る解雇事由として主張する事項は、その存在が認められないか、解雇事由に該当すると認められないか、又は解雇事由に該当するとしても当該事由に基づいて解雇することが客観的合理性及び社会的相当性を有するとはいえないものである。
このことに加え、原告が、被告に対して繰り返し勤務日数ないし勤務時間数について苦情等の訴えや改善要求をしていた一方で、与えられた勤務自体は継続し、その際当該勤務上の指示にも従っていたことも併せかんがみれば、本件解雇は、客観的合理性及び社会的相当性を欠くものであって、無効であったというべきである。
そして、かかる本件解雇の無効及び前記認定事実に係る本件解雇に至る経緯にかんがみれば、本件解雇は、それ自体権利濫用に該当し、不法行為に該当するものと評価すべきである。

・本件解雇は無効かつ違法なものであるところ、原告は、平成3年から被告に期間の定めのない従業員として勤めており、本件解雇がなかったならば、以後相当期間にわたって被告に勤務していた可能性が高いと考えられる上、少なくとも前件訴訟に係る訴えを取り下げる平成20年3月17日までの間、原告は被告に対し、継続的に労働契約上の権利を有することの確認を求めていたこと、本件解雇により、被告からの収入を絶たれ、その年齢から見ても再就職が困難な状況に置かれたことからすれば、本件解雇前3か月の週平均賃金額の34週分をもって、被告による違法な本件解雇との相当因果関係のある損害(逸失利益)と解するのが相当である。

・本件解雇後の相当期間の得べかりし利益の損害賠償が肯定される本件において、更に精神的苦痛に係る損害賠償を認めるのは相当ではないから、この点に関する原告の主張は採用できない。

厚生労働省・第7回 透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会(平成28年6月6日)より

テイケイ事件・東京地判平23・11・18 労判1044号55頁

ロア・ユナイテッド法律事務所「労働法レポート」より 2012/8/20


【判示事項】

①原告Xの言動等について,被告Y社が本件解雇にかかる解雇事由として主張する事項(Xの業務引継帳への記載,Xへのクレーム,Xのリーダーに対する言動,配属拒絶,勤務配置にかかる言動,上司・同僚への損害賠償請求メール送信,上司への対応,会長への抗議文の送付等)は,その存在が認められないか,解雇事由に該当すると認められないか,または解雇事由に該当するとしても当該事由に基づいて解雇することが客観的合理性および社会的相当性を有するとはいえないものであり,本件解雇は,それ自体権利濫用に該当し,不法行為に該当するとされた例(Y社の同方針にもかかわらず,Xが週7日勤務希望と記載した勤務予定表の提出を継続し,そのためにY社の配置担当者がXの休日の調整を別途することとなったことについては,就業規則31条(服務の原則)8項「会社の方針,諸規定を守り,上司の指示・命令に従うこと」および同条16項「職場内の風紀秩序を常に配慮し,自分勝手な行動をとらないこと」に抵触する側面があることは,否定できなとしつつ、「①Xの賃金が時給制であり,勤務日数や勤務時間の減少は,収入減少に直結するものであること,②……原則週6日勤務への変更が,何らの事前説明や協議がされることなく行われ,その後もこの点についてXに対して必要かつ十分な説明がされてはいないこと,③Xは,勤務予定表に週7日勤務を希望する旨記載して提出しつつも,Y社から週6日勤務の方針の維持を伝えられれば,同方針に従って勤務を継続していたものであること,がそれぞれ認められ,これらのことを踏まえると,Xが週7日勤務希望と記載した勤務予定表を提出し続けた主な要因として,Y社が,週6日勤務の方針について,Xの収入減少に直結する重要な労働条件の変更に準じた事柄であるにもかかわらず,その理解と納得を得る手続を踏まなかったことが指摘できるのであって,このような要因に基づくXの行動を解雇事由とすることには,客観的合理性及び社会的相当性があるとはいえない」とした)
② 差別的な勤務数減少その他の言動について,Xが不法行為を構成する事実として主張する事柄は,その存在が認められないか,または独立の不法行為を構成する程の違法性を有するものであったと評価することはできないとされた例
③ 勤務数減少について,①労基法上,使用者は,労働者に対して,毎週少なくとも1日の休日を与えなければならないものとされており(同法35条1項),Y社がXについて原則週6日勤務とすることとした措置は,同法所定の当該義務を履行する側面を有するものであること,②X以外にもY社において概ね週1日の休日を取っている者がいると認められ,Y社がXのみを差別的に取り扱って週1日の休日を取らせることとしたものとは評価しがたいことからすれば,Xについて原則週6日勤務とすることとしたY社の措置自体が違法性を有し,不法行為を構成するとまでは評価できないとされた例
*会社への批判や賠償請求メール発信等の動機、経緯を踏まえ、解雇無効とした例、勤務割による勤務時間減少にの不法行為否定例を、各追加するもの。

【解説】労働判例104455

(1)事件の概要 

原告(以下,「X」)は,護送業務や警備業務等を主な事業内容とする被告テイケイ株式会社(以下,「Y社」)に,期間の定めのない従業員(準社員)として雇用され,警備員として就労していた。
Xの賃金は日給制・時給制であり,毎週火曜日締め,翌週金曜日払いであった。
Y社の警備業務は,1号警備(施設警備)と2号警備(スーパーの駐車場や道路工事等にかかる交通誘導)に分かれ,一般的に,1号警備は安定的に警備業務があり,2号警備のうち補助的勤務となると,勤務日,時間等が不規則となり,残業も乏しい。
Xは,A不動産株式会社中原ビル(以下,「Sビル」)で勤務していたが,同僚らとの仲違いおよび顧客からのクレームを契機として,Y社は,平成18年6月に,Xの配置換えを決定した。
その後,この件に関連して,Xの言動に問題があったため,Y社は,19年6月22日,Xに対し,解雇を通告した(以下,「本件解雇」)。
解雇理由は,総合的にみて信頼関係の回復が難しく雇用継続が困難であるためとされていた。
Xは,Y社を相手に提訴し,本件解雇が違法であるとして不法行為に基づく損害賠償(逸失利益等)を請求し,また,本件解雇および勤務中の勤務数減少その他の言動等の不法行為により精神的苦痛を受けたとして慰謝料も請求している。
本件の争点は,(1)本件解雇の有効性・違法性,(2)Y社からの度重なる差別的な勤務数減少その他の言動による不法行為の成否,(3)Xの損害賠償額である。

(2)判断のポイント 

争点(1)について判決は,Xの業務引継帳への記載,Xへのクレーム,Xのリーダーに対する言動,配属拒絶,勤務配置にかかる言動,上司・同僚への損害賠償請求メール送信,上司への対応,会長への抗議文の送付等,Y社が本件解雇にかかる解雇事由として主張する事項について判旨1のように述べて,本件解雇は,それ自体権利濫用に該当し,不法行為に該当するとした。
判決は,Xの勤務配置にかかる言動については,次のように述べている。
Xは,平成18年11月12日から原則週6日勤務に変更されて以降,Y社に対し,再三にわたり週7日勤務の希望を表明し,勤務予定表にも週7日勤務希望と記載してY社に提出していたのに対し,Y社は,Xに対し,Y社によるXの6日勤務の方針は,労基法の労働時間規制遵守の観点から,労働日数および時間につき週5日(週40時間)勤務に月間残業時間40時間を加えた時間内に抑えるため行っているものであると説明し,同方針を維持したことが認められる。
そして,Y社の同方針にもかかわらず,Xが週7日勤務希望と記載した勤務予定表の提出を継続し,そのためにY社の配置担当者がXの休日の調整を別途することとなったことについては,就業規則31条(服務の原則)8項「会社の方針,諸規定を守り,上司の指示・命令に従うこと」および同条16項「職場内の風紀秩序を常に配慮し,自分勝手な行動をとらないこと」に抵触する側面があることは,否定できないというべきである。
ただし,この点については,「①Xの賃金が時給制であり,勤務日数や勤務時間の減少は,収入減少に直結するものであること,②……原則週6日勤務への変更が,何らの事前説明や協議がされることなく行われ,その後もこの点についてXに対して必要かつ十分な説明がされてはいないこと,③Xは,勤務予定表に週7日勤務を希望する旨記載して提出しつつも,Y社から週6日勤務の方針の維持を伝えられれば,同方針に従って勤務を継続していたものであること,がそれぞれ認められ,これらのことを踏まえると,Xが週7日勤務希望と記載した勤務予定表を提出し続けた主な要因として,Y社が,週6日勤務の方針について,Xの収入減少に直結する重要な労働条件の変更に準じた事柄であるにもかかわらず,その理解と納得を得る手続を踏まなかったことが指摘できるのであって,このような要因に基づくXの行動を解雇事由とすることには,客観的合理性及び社会的相当性があるとはいえない」とした。
判決は,また,Xの上司・同僚への損害賠償請求メール送信については,次のように述べている。
Xが平成18年11月7日にD課長およびSビル同僚らに対して送信した損害賠償請求メールは,同人らに対して高額の損害賠償請求を行うことおよびこれに対して誠意ある対応をとらなければ法的措置を行うことを内容とするものであり,当該内容およびその送信行為自体は,不穏当なものであって,少なくとも就業規則31条(服務の原則)16項に抵触するものと評価せざるを得ないというベきである。
もっとも,Xが損害賠償請求メールの送信に至った経緯にかんがみれば,Xにおいては,Y社からいったんSビル勤務時と比べて収入面その他の労働条件で遜色のないP病院への配置の内示を受けながら,間もなく十分な説明も協議も経ないまま同内示を取り消され,上司の判断次第で2号警備に配置されることとなることを前提とした経済産業省への配置提案を断ると,そのまま2号警備(補助的業務)を継続させられたことにより大幅な減収を余儀なくされたものであって,Xが,これらの減収等の経緯につきSビル同僚やD課長に帰責事由があると考え,損害賠償請求を行うことを決意するに至ったことには,相応の理由があったというべきである。
このことに加え,職場内の風紀が著しく混乱したと認められないことも併せかんがみれば,本件損害賠償請求メールの送信を解雇事由として解雇することにつき,客観的合理性および社会的相当性があるとはいえないとした。
判決は,争点(2)の勤務数減少等の差別的言動について,判旨2のように述べて,Xの主張には理由がないとした。
また,争点(2)の勤務数減少について判決は,判旨3のように述べて,Xについて原則週6日勤務とすることとしたY社の措置自体が違法性を有し,不法行為を構成するとまでは評価できないとした。

(3)参考判例 

使用者は,労基法所定の要件を満たした場合に労働者に時間外労働を命じることができるものであり,労働者に時間外労働を求める権利はない(函館信用金庫事件・函館地判平6.12.22労判665号33頁)。
休日労働についても同様である。
訴訟提起については,同僚とのいさかいをめぐり,いきなり会社に対して訴訟を提起する行為は,組織の融和や自律的な問題解決を図る見地からは,非常識的な行為ということも十分に理由があるといえるが,労働者の非協調的な性格・行動傾向があり,社内で孤立していた様子がうかがわれ,総務課長などを当てにすることができないと考えていたことが認められる状況にある者にとって,自分より上位にある者から強い叱責を受け,社内での解決に頼ることができず裁判手続きによるほかないと考えることは無理からぬものであり,顛末書を提出せず社長の事情聴取に応じないことも無理からぬものがあり,このような状況を会社が理解せず,直ちに懲戒解雇したことは,相当な理由を欠くとしたものがある(第一化成事件・東京地判平20.6.10労判972号51頁)

ロア・ユナイテッド法律事務所「労働法レポート」より 2012/8/20

有期労働契約60(警備会社A事件)

弁護士法人 栗田 勇法律事務所「有期労働契約」有期労働契約60(警備会社A事件)より 2016/2/19


おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。
今日は、3か月ごと14回更新してきた準社員に対する雇止めの有効性に関する裁判例を見てみましょう。

警備会社A事件(東京地裁立川支部平成27年3月26日・労判1123号144頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社との間の有期雇用契約が期間の定めのないものに転化したか、そうでないとしても、実質的に期間の定めのない雇用契約と同視できるから、Y社がした雇用契約を更新しない旨の通知は解雇権の濫用に当たり許されないとして、Y社に対し、(1)雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、雇用契約の更新を拒絶されたとする平成25年1月以降毎月11万7270円の賃金の支払いを求めるとともに、(2)Y社の不当解雇により精神的苦痛を受けたとして、不法行為に基づく慰謝料160万円の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件雇用契約に係る雇用契約書には、契約の更新に関する記載はなく、3か月の雇用期間が終了する前に、新たに雇用期間を3か月とする雇用契約書を作成しており、当然更新を重ねたことはないこと、訴外会社とXとの間の雇用契約は、訴外会社が警備業務を受託しなくなったことにより、雇止めを受けて終了したのであり、本件雇用契約は、訴外会社とXとの間の雇用契約とは、法的には全く別のものと評価されること、本件雇用契約の更新回数は、14回にわたっているものの、本件雇用契約の期間は3か月であるから、通算して3年9か月であること、Xは、上記のような経緯でY社に採用された際に、既に65歳になっており、Xと同様に、Y社に採用されることになった者の中には、Xよりも高齢の者も複数いたが、いずれも、既に退職しており、Y社から雇止めを受けた者もいること、Xは、本件雇止めの当時、本件施設の派遣隊員の中では最高齢の68歳で、次回の更新をすれば69歳に達するという者であったこと、本件施設は、複雑な構造をしており、かつ、車両認証システムや専門の管制室が備えられており、これらの点に適切に対応し得る判断力や俊敏さが求められていることが認められ、これらの事情に照らせば、本件雇用契約は、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在しているとも、期間満了後にY社が雇用を継続すべきものと期待することに合理性があるものともいえないから、いわゆる解雇権濫用法理を類推適用する余地はない。

2 これに対して、Xは、更新に合理的期待があったとして、①Y社が、採用面接や新任研修時に、元気であればいつまででも働いてもらってよい、FK店では75歳を過ぎても元気で頑張っている人がいるなどの発言をしたこと、②Y社が、本件雇用契約の次回の更新後の日に予定されている警備員現任教育受講案内をXに送付したこと、③Dが、平成25年1月のシフト表の変更を命じなかったり、Xが同月1日及び2日に出勤したにもかかわらず、強い指導をしなかったこと等と主張する。
しかし、①については、Y社代表者は、そのような発言をしたことを否定しており、また、Y社が当時から、ISO9001の認証を受けており、その登録継続や競合他社との競争力の強化のために、正社員の構成比率を高め、若返りを図ることを進めていたと推認されるところ、Y社代表者が、Y社の企業方針に沿わない趣旨の言動をするとは考えにくい。
また、②については、Dが甲7の送付は、単にY社本部における事務手続き上の間違いに過ぎない旨の供述をしていることに照らせば、上記の事実を過度に評価すべきではない。
さらに、③については、Dは、既に、平成24年9月に、Xに対し、本件雇止めについて告げていること、平成25年1月分のシフト表にXが記載されていることに気付かなかったこと、平成25年1月1日、2日に、Xに対し、出勤の必要はない旨を重ねて述べていることは、上記認定のとおりである。
したがって、Xの上記主張は、いずれも採用することができない。

有期雇用の場合は、雇用期間満了ごとに、自動更新にせずに、しっかりと新たに雇用契約書を作成することが大切です。
また、雇止めに期待を抱かせる言動は安易にしないことが大切です。

加えて、過去の裁判例を研究し、裁判所が重要視している点を頭にしっかり入れておくことが求められます。

弁護士法人 栗田 勇法律事務所「有期労働契約」有期労働契約60(警備会社A事件)より 2016/2/19