週刊東洋経済Plus-ニュース最前線-「求人倍率は99.9倍 交通誘導員不足の悲鳴 交通誘導員が確保できず、作業中止に追い込まれる建設現場も。」より 2017/08/05号
「おまえさんみたいな若いもんは、一生こんな仕事就くなよ」──。
7月上旬の真夏日、記者の取材に70歳の交通誘導員の男性はこうつぶやいた。
男性は建設現場でダンプカーの出入りや付近を走る自動車の誘導などを行っている。
炎天下の現場が続き、肌は真っ黒に焼けていた。
公道を使用する工事には、交通誘導員の配置義務がある。
交通量の多い道路なら、交通誘導警備業務検定2級以上の国家資格を持った交通誘導員が必要だ。
だが、その資格に見合った待遇であるとはいいがたい。
山陰地方で交通誘導員として働く50代の佐藤さん(仮名)。
勤めていた食品会社が3年前に倒産し、地元の警備会社に転職した。
勤務時間は8〜17時だが、「人手が足りないときは続けて夜勤、日勤と最長32時間勤務したこともあった」(佐藤さん)。
資格は持っているが、週6日勤務で月給は20万円にも満たない。
劣悪な労働環境などの理由で、交通誘導員の不足が深刻化している。
ハローワークに掲載されている求人によれば、交通誘導員が多数を占める「他に分類されない保安」の2016年度の有効求人倍率は全国で33.7倍。
東京都内に限れば99.9倍にハネ上がる。
国も対策に乗り出した
今年6月には国土交通省が全国の建設・警備業界団体や自治体の入札担当部局に向けて、「交通誘導員の円滑な確保に努めるよう」との通達を出した。
国交省が動いたのは、交通誘導員が手配できず、「工事が止まった現場もある」(福島県の公共工事入札担当者)という、被災地の苦境からだ。
特に昨年4月の熊本地震で被災した九州では、警備業者が少なく、「交通誘導員の確保が最優先」(熊本県の建設会社)。
都内の業者にまで発注がかかるが、「首都圏の仕事だけで手いっぱい」(都内に本社を構えるシンコー警備保障・竹内昭社長)なのが現状だ。
交通誘導員の賃金は、公共工事では建設資材と同じ共通仮設費に区分されていた。
そのため、「社会保険未加入のまま働かせていた業者も少なくなかった」(首都圏の中小警備会社)。
「建設資材と同じ扱いか」との批判もあり、16年度からは他の建設作業員と同じ、人件費として計上されるようになった。
現在、都内で働く有資格者の交通誘導員の日当は約1.4万円。
近年の人手不足を受け、5年前と比べ4割も上昇した。
だが、ダンプカーの運転手などほかの建設作業員と比べても5000円近く低い。
そのうえ、警備業に詳しい仙台大学の田中智仁准教授は、「行政が賃金を高く見積もっても、結局建設業者や警備業者に中抜きされ、交通誘導員に渡る金額は減ってしまう」と指摘する。
冒頭の男性は「何かを生み出すのではなく、何もないことが仕事の成果だ。だからありがたみが理解されにくい」とこぼす。
“ただの棒振り”ではない、彼らの処遇を見直す時が来ているのではないか。
一井 純:東洋経済
記者
週刊東洋経済Plus-ニュース最前線-「求人倍率は99.9倍 交通誘導員不足の悲鳴 交通誘導員が確保できず、作業中止に追い込まれる建設現場も。」より 2017/08/05号
0 件のコメント:
コメントを投稿