警備業界、警備会社、警備員における問題点: 10月 2016   

2016年10月7日金曜日

最高裁、上告を棄却 仮眠・休憩時間は労働時間外

警備保障タイムズ「最高裁、上告を棄却 仮眠・休憩時間は労働時間外」より 2014/9/21

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警備員らの請求退ける

官公庁のビル管理や警備業務を行うビソー工業(埼玉、戸張四郎社長=当時)が業務委託された宮城県立がんセンターの警備業務における賃金等請求控訴事件で8月26日、最高裁は上告を棄却。
仮眠・休憩時間がすべて労働時間であるとの主張を退け、警備員らの請求を棄却した。【新野雄高】

賃金支払い求め労働審判

宮城県立がんセンターに勤務する警備員8人は平成22年2月、勤務先のビソー工業を相手取り、未払いの賃金並びに時間外・深夜割増手当、付加金など総額約5300万円の支払いを求める労働審判を仙台地裁に申し立てた。
同社は平成19年4月、がんセンターとの業務委託契約に基づき、従前の受託企業に雇用され就労していた警備員11人を引き続き雇用し労働契約を締結した。
警備員らは賃金の引上げや有給休暇の完全取得などの実施を求め同社と交渉、労働基準監督署への申告を繰り返した後、8人が休憩と仮眠時間中も拘束されるが労働時間外として賃金は支払われていないと訴えた。
労働審判は3回の審理を経て、審判官は一部時間外労働について申立人1人あたり12万円を同社が支払うという和解案を提示したが、これを申立人が拒否。
通常訴訟に移行することとなった。

仙台地裁、主張認める

仙台地裁は平成24年1月25日、警備員らの主張を認め、一部時間外労働などの賃金とこれに付帯する利息の支払いを命じる判決を言い渡した(ただし、損害賠償、慰謝料などの請求は退けた)。
同社は①仮眠・休憩時間は労働から解放された時間にあたるかは、その時間に実作業に従事した割合ないし頻度から客観的に判断すべき②原告らの主張する「最高裁大星ビル管理事件判決」(右下記事参照)は、警備員が仮眠時間中1人で待機し警備業務などに従事していたもので、本件は4人体制で2人ずつ交代制で休憩・仮眠をとっているため事案を異にする③実際、休憩・仮眠時間についた実作業への従事割合は極めて低い④仙台労働基準監督署の指導を受けた際、休憩・仮眠時間の割増賃金の不払いの指摘を受けたことはないの4点を主張した。
判決では、実作業に従事していない時間が労働時間に該当するかは、使用者の指揮命令下に置かれていたと評価できるかにより、客観的に定まると解される。緊急時、実作業に従事することが義務づけられている場合、それが皆無に等しいなど実質的に義務づけられていないと認められる特段の事情がない限り、労働基準法上の労働時間に当たるべき(最高裁大星ビル管理事件判決)との判断を示した。
 
仙台高裁は範囲限定

同社は平成24年1月、仙台高裁に控訴。警備員らは休憩・仮眠時間中といえども、待機が義務づけられ非常事態に備えて緊張感を持続しておく必要があることから、時間外労働として割増賃金並びに損害賠償金の支払いを主張。
平成25年2月13日、仙台高裁は次のように判決を下した。
仮眠・休憩時間が一般的、原則的に労働時間に当たると認めることはできない。
実際に作業に従事した場合の時間外労働として、その時間に相当する未払い賃金を請求することができるに留まるとした。
 
原告側が上告

仙台高裁の判決を受けて警備員らは上告したが、8月26日、最高裁は上告を棄却。高裁判決が確定した。なお、上告受理申立ても認められていない。
本件の上告理由は、違憲及び理由の不備・食い違いをいうが、実質は事実誤認または単なる法令違反を主張するものであって、民事訴訟法318条1項または2項に規定する事由に該当しないとの判断が最高裁より示された。

皆川潤弁護士のコメント

私は、本件控訴審から訴訟を担当したので、以下は控訴審からの視点でのコメントである。
控訴審においてまず留意したいことは、警備員の労働実態をなるべく詳細に明らかにし、仮眠・休憩時間中に実作業に従事する必要性が生じることが皆無に等しい状況であったことを裏付けることであった。
具体的には、警備員の1日の勤務内容(勤務ローテーション)と警備員が主張する仮眠・休憩中の時間外労働の内容を分析し、そもそも仮眠・休憩時間を中断してまで従事する必要があった作業はほとんどないこと、大半の作業は、仮眠・休憩時間の開始、終了前後の時間に行われており、警備員は仮眠・休憩時間を継続して取得し、労働から解放されていること、仮眠時間を中断している場合も、中断してまで行う必要のない業務であったことなどを87件の事例について詳細に主張したものである。
判決では会社側の詳細の主張について、ほぼその通りに認定がされ、仮眠・休憩時間中の実作業に従事する必要性が生じることが皆無に等しい状況であったとの結論に至っている。
本件では、実際に警備を行っている病院からは、契約条件の解釈などビソー工業の主張に対して否定的な見解が出されていた点を懸念材料と考えていたが、上述の通りの具体的労働実態の分析結果が、より重要なポイントとなった。
本件控訴審判決は、特殊な具体的事情が裁判所に理解された事例的な判断であり、同様の訴訟においては、いかに具体的な事情を主張できるか、その前提としての日々の業務実態を把握できているかが重要であると考えられる。

戸張四郎ビソー工業代表取締役会長の談話

今般の最高裁決定は、当然の結果と考えております。
一審の地裁判決が事実認定を誤り原告の主張を丸呑みしたことには憤りを禁じえません。
しかし、控訴審の高裁で休憩・仮眠時間中の時間外労働など事実を詳細に検討した上での判決には満足しており、弁護団の努力の賜物です。
今般の一審判決が当たり前とされるのなら警備業界の経営に与える影響は計り知れません。
また従業員をこのような訴訟に扇動した独立系労働組合があったように聞いております。
真摯に運動に取り組む多くの労働組合にとっても大変迷惑なことだと思います。

大星ビル管理事件(割増賃金請求控訴事件)

裁判年月日:平成8年12月5日、東京高等裁判所

ビル管理会社の従業員は、ビル設備の運転操作、ビル内巡回監視などに従事。
毎月数回、24時間勤務に従事し、その間、仮眠時間が連続8時間与えられていたが、仮眠室に待機し、警報が鳴るなどすれば直ちに所定の作業を行うこととされ、そのような事態が生じない限りは睡眠をとってよいことになっていた。
24時間勤務に対しては泊まり勤務手当を支給し、突発的作業等に従事した場合のみ、時間外手当及び深夜手当を支給していた。
従業員は、仮眠時間は現実に作業を行ったかにかかわらず、すべて労働時間であり、労働契約に基づき仮眠時間に対し時間外勤務手当を、深夜の時間帯に対し深夜就業手当を支払うべきと主張。未払い賃金などの支払いを請求した。

原審は、①仮眠時間は労働時間に当たるとした上で、労働契約上時間外勤務手当などを支給する合意はなかったとして、従業員の請求を全面的に認容した一審判決を変更し、②仮眠時間のうち変形労働時間制のもとで法定労働時間を超える部分及び労働基準法上の深夜労働に当たる部分についてのみ割増賃金の支払いを命じた。

最高裁は①仮眠時間は労働基準法上の労働時間に当たるが、労働契約上はこれに対して時間外勤務手当を支給する合意はないとした上で、②労働基準法上の時間外労働に当たる時間には割増賃金を支払うべきであるところ、管理会社が採用する変形労働時間制が〝労働基準法32条の2〟の要件を充足しているかについて原審は判断しておらず、また変形労働時間制が適用されることを前提としても、その時間外労働の算出方法は是認することができない。
この部分についての原審の判断部分は法令の解釈適用を誤った違法があるとして破棄し、原審に差戻しを命じた。

労働基準法32条の2(1か月単位の変形労働時間制)
 
1か月単位の変形労働時間制とは、夜間勤務者や隔日勤務者の他に、月初め、月末、特定の週などによって業務の繁閑差がある事業の労働者について利用される制度のこと。

労使協定または就業規則、その他これに準ずるものによって、以下の事項を定めて所轄の労働基準監督署長に届け出なければならない。

1.1か月以内の一定期間を平均し、1週間あたりの労働時間が法定労働時間を超えないこと
2.対象となる労働者の範囲
3.変形期間(1か月以内)および変形期間の起算日
4.変形期間の各日および各週の労働時間
5.労使協定(労働協約である場合を除く)による場合はその有効期間

警備保障タイムズ「最高裁、上告を棄却 仮眠・休憩時間は労働時間外」より 2014/9/21

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2016年10月6日木曜日

「解雇無効の判断」と「不法行為該当性の判断」を特に区別せずに逸失利益を判断した裁判例

厚生労働省・第7回 透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会(平成28年6月6日)より

  
テイケイ事件(東京地判H23.11.18労判104455

【解雇の種類】・普通解雇

【請求内容】・不法行為に基づく損害賠償請求(逸失利益賃金2年分相当額、他の行為も合わせた慰謝料140万円)

【判決】・一部認容(逸失利益賃金34週分相当額(以後相当期間にわたって勤務していた可能性が高い、再就職が困難))、慰謝料請求は棄却。

・以上のとおり、被告が本件解雇に係る解雇事由として主張する事項は、その存在が認められないか、解雇事由に該当すると認められないか、又は解雇事由に該当するとしても当該事由に基づいて解雇することが客観的合理性及び社会的相当性を有するとはいえないものである。
このことに加え、原告が、被告に対して繰り返し勤務日数ないし勤務時間数について苦情等の訴えや改善要求をしていた一方で、与えられた勤務自体は継続し、その際当該勤務上の指示にも従っていたことも併せかんがみれば、本件解雇は、客観的合理性及び社会的相当性を欠くものであって、無効であったというべきである。
そして、かかる本件解雇の無効及び前記認定事実に係る本件解雇に至る経緯にかんがみれば、本件解雇は、それ自体権利濫用に該当し、不法行為に該当するものと評価すべきである。

・本件解雇は無効かつ違法なものであるところ、原告は、平成3年から被告に期間の定めのない従業員として勤めており、本件解雇がなかったならば、以後相当期間にわたって被告に勤務していた可能性が高いと考えられる上、少なくとも前件訴訟に係る訴えを取り下げる平成20年3月17日までの間、原告は被告に対し、継続的に労働契約上の権利を有することの確認を求めていたこと、本件解雇により、被告からの収入を絶たれ、その年齢から見ても再就職が困難な状況に置かれたことからすれば、本件解雇前3か月の週平均賃金額の34週分をもって、被告による違法な本件解雇との相当因果関係のある損害(逸失利益)と解するのが相当である。

・本件解雇後の相当期間の得べかりし利益の損害賠償が肯定される本件において、更に精神的苦痛に係る損害賠償を認めるのは相当ではないから、この点に関する原告の主張は採用できない。

厚生労働省・第7回 透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会(平成28年6月6日)より

テイケイ事件・東京地判平23・11・18 労判1044号55頁

ロア・ユナイテッド法律事務所「労働法レポート」より 2012/8/20


【判示事項】

①原告Xの言動等について,被告Y社が本件解雇にかかる解雇事由として主張する事項(Xの業務引継帳への記載,Xへのクレーム,Xのリーダーに対する言動,配属拒絶,勤務配置にかかる言動,上司・同僚への損害賠償請求メール送信,上司への対応,会長への抗議文の送付等)は,その存在が認められないか,解雇事由に該当すると認められないか,または解雇事由に該当するとしても当該事由に基づいて解雇することが客観的合理性および社会的相当性を有するとはいえないものであり,本件解雇は,それ自体権利濫用に該当し,不法行為に該当するとされた例(Y社の同方針にもかかわらず,Xが週7日勤務希望と記載した勤務予定表の提出を継続し,そのためにY社の配置担当者がXの休日の調整を別途することとなったことについては,就業規則31条(服務の原則)8項「会社の方針,諸規定を守り,上司の指示・命令に従うこと」および同条16項「職場内の風紀秩序を常に配慮し,自分勝手な行動をとらないこと」に抵触する側面があることは,否定できなとしつつ、「①Xの賃金が時給制であり,勤務日数や勤務時間の減少は,収入減少に直結するものであること,②……原則週6日勤務への変更が,何らの事前説明や協議がされることなく行われ,その後もこの点についてXに対して必要かつ十分な説明がされてはいないこと,③Xは,勤務予定表に週7日勤務を希望する旨記載して提出しつつも,Y社から週6日勤務の方針の維持を伝えられれば,同方針に従って勤務を継続していたものであること,がそれぞれ認められ,これらのことを踏まえると,Xが週7日勤務希望と記載した勤務予定表を提出し続けた主な要因として,Y社が,週6日勤務の方針について,Xの収入減少に直結する重要な労働条件の変更に準じた事柄であるにもかかわらず,その理解と納得を得る手続を踏まなかったことが指摘できるのであって,このような要因に基づくXの行動を解雇事由とすることには,客観的合理性及び社会的相当性があるとはいえない」とした)
② 差別的な勤務数減少その他の言動について,Xが不法行為を構成する事実として主張する事柄は,その存在が認められないか,または独立の不法行為を構成する程の違法性を有するものであったと評価することはできないとされた例
③ 勤務数減少について,①労基法上,使用者は,労働者に対して,毎週少なくとも1日の休日を与えなければならないものとされており(同法35条1項),Y社がXについて原則週6日勤務とすることとした措置は,同法所定の当該義務を履行する側面を有するものであること,②X以外にもY社において概ね週1日の休日を取っている者がいると認められ,Y社がXのみを差別的に取り扱って週1日の休日を取らせることとしたものとは評価しがたいことからすれば,Xについて原則週6日勤務とすることとしたY社の措置自体が違法性を有し,不法行為を構成するとまでは評価できないとされた例
*会社への批判や賠償請求メール発信等の動機、経緯を踏まえ、解雇無効とした例、勤務割による勤務時間減少にの不法行為否定例を、各追加するもの。

【解説】労働判例104455

(1)事件の概要 

原告(以下,「X」)は,護送業務や警備業務等を主な事業内容とする被告テイケイ株式会社(以下,「Y社」)に,期間の定めのない従業員(準社員)として雇用され,警備員として就労していた。
Xの賃金は日給制・時給制であり,毎週火曜日締め,翌週金曜日払いであった。
Y社の警備業務は,1号警備(施設警備)と2号警備(スーパーの駐車場や道路工事等にかかる交通誘導)に分かれ,一般的に,1号警備は安定的に警備業務があり,2号警備のうち補助的勤務となると,勤務日,時間等が不規則となり,残業も乏しい。
Xは,A不動産株式会社中原ビル(以下,「Sビル」)で勤務していたが,同僚らとの仲違いおよび顧客からのクレームを契機として,Y社は,平成18年6月に,Xの配置換えを決定した。
その後,この件に関連して,Xの言動に問題があったため,Y社は,19年6月22日,Xに対し,解雇を通告した(以下,「本件解雇」)。
解雇理由は,総合的にみて信頼関係の回復が難しく雇用継続が困難であるためとされていた。
Xは,Y社を相手に提訴し,本件解雇が違法であるとして不法行為に基づく損害賠償(逸失利益等)を請求し,また,本件解雇および勤務中の勤務数減少その他の言動等の不法行為により精神的苦痛を受けたとして慰謝料も請求している。
本件の争点は,(1)本件解雇の有効性・違法性,(2)Y社からの度重なる差別的な勤務数減少その他の言動による不法行為の成否,(3)Xの損害賠償額である。

(2)判断のポイント 

争点(1)について判決は,Xの業務引継帳への記載,Xへのクレーム,Xのリーダーに対する言動,配属拒絶,勤務配置にかかる言動,上司・同僚への損害賠償請求メール送信,上司への対応,会長への抗議文の送付等,Y社が本件解雇にかかる解雇事由として主張する事項について判旨1のように述べて,本件解雇は,それ自体権利濫用に該当し,不法行為に該当するとした。
判決は,Xの勤務配置にかかる言動については,次のように述べている。
Xは,平成18年11月12日から原則週6日勤務に変更されて以降,Y社に対し,再三にわたり週7日勤務の希望を表明し,勤務予定表にも週7日勤務希望と記載してY社に提出していたのに対し,Y社は,Xに対し,Y社によるXの6日勤務の方針は,労基法の労働時間規制遵守の観点から,労働日数および時間につき週5日(週40時間)勤務に月間残業時間40時間を加えた時間内に抑えるため行っているものであると説明し,同方針を維持したことが認められる。
そして,Y社の同方針にもかかわらず,Xが週7日勤務希望と記載した勤務予定表の提出を継続し,そのためにY社の配置担当者がXの休日の調整を別途することとなったことについては,就業規則31条(服務の原則)8項「会社の方針,諸規定を守り,上司の指示・命令に従うこと」および同条16項「職場内の風紀秩序を常に配慮し,自分勝手な行動をとらないこと」に抵触する側面があることは,否定できないというべきである。
ただし,この点については,「①Xの賃金が時給制であり,勤務日数や勤務時間の減少は,収入減少に直結するものであること,②……原則週6日勤務への変更が,何らの事前説明や協議がされることなく行われ,その後もこの点についてXに対して必要かつ十分な説明がされてはいないこと,③Xは,勤務予定表に週7日勤務を希望する旨記載して提出しつつも,Y社から週6日勤務の方針の維持を伝えられれば,同方針に従って勤務を継続していたものであること,がそれぞれ認められ,これらのことを踏まえると,Xが週7日勤務希望と記載した勤務予定表を提出し続けた主な要因として,Y社が,週6日勤務の方針について,Xの収入減少に直結する重要な労働条件の変更に準じた事柄であるにもかかわらず,その理解と納得を得る手続を踏まなかったことが指摘できるのであって,このような要因に基づくXの行動を解雇事由とすることには,客観的合理性及び社会的相当性があるとはいえない」とした。
判決は,また,Xの上司・同僚への損害賠償請求メール送信については,次のように述べている。
Xが平成18年11月7日にD課長およびSビル同僚らに対して送信した損害賠償請求メールは,同人らに対して高額の損害賠償請求を行うことおよびこれに対して誠意ある対応をとらなければ法的措置を行うことを内容とするものであり,当該内容およびその送信行為自体は,不穏当なものであって,少なくとも就業規則31条(服務の原則)16項に抵触するものと評価せざるを得ないというベきである。
もっとも,Xが損害賠償請求メールの送信に至った経緯にかんがみれば,Xにおいては,Y社からいったんSビル勤務時と比べて収入面その他の労働条件で遜色のないP病院への配置の内示を受けながら,間もなく十分な説明も協議も経ないまま同内示を取り消され,上司の判断次第で2号警備に配置されることとなることを前提とした経済産業省への配置提案を断ると,そのまま2号警備(補助的業務)を継続させられたことにより大幅な減収を余儀なくされたものであって,Xが,これらの減収等の経緯につきSビル同僚やD課長に帰責事由があると考え,損害賠償請求を行うことを決意するに至ったことには,相応の理由があったというべきである。
このことに加え,職場内の風紀が著しく混乱したと認められないことも併せかんがみれば,本件損害賠償請求メールの送信を解雇事由として解雇することにつき,客観的合理性および社会的相当性があるとはいえないとした。
判決は,争点(2)の勤務数減少等の差別的言動について,判旨2のように述べて,Xの主張には理由がないとした。
また,争点(2)の勤務数減少について判決は,判旨3のように述べて,Xについて原則週6日勤務とすることとしたY社の措置自体が違法性を有し,不法行為を構成するとまでは評価できないとした。

(3)参考判例 

使用者は,労基法所定の要件を満たした場合に労働者に時間外労働を命じることができるものであり,労働者に時間外労働を求める権利はない(函館信用金庫事件・函館地判平6.12.22労判665号33頁)。
休日労働についても同様である。
訴訟提起については,同僚とのいさかいをめぐり,いきなり会社に対して訴訟を提起する行為は,組織の融和や自律的な問題解決を図る見地からは,非常識的な行為ということも十分に理由があるといえるが,労働者の非協調的な性格・行動傾向があり,社内で孤立していた様子がうかがわれ,総務課長などを当てにすることができないと考えていたことが認められる状況にある者にとって,自分より上位にある者から強い叱責を受け,社内での解決に頼ることができず裁判手続きによるほかないと考えることは無理からぬものであり,顛末書を提出せず社長の事情聴取に応じないことも無理からぬものがあり,このような状況を会社が理解せず,直ちに懲戒解雇したことは,相当な理由を欠くとしたものがある(第一化成事件・東京地判平20.6.10労判972号51頁)

ロア・ユナイテッド法律事務所「労働法レポート」より 2012/8/20

有期労働契約60(警備会社A事件)

弁護士法人 栗田 勇法律事務所「有期労働契約」有期労働契約60(警備会社A事件)より 2016/2/19


おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。
今日は、3か月ごと14回更新してきた準社員に対する雇止めの有効性に関する裁判例を見てみましょう。

警備会社A事件(東京地裁立川支部平成27年3月26日・労判1123号144頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社との間の有期雇用契約が期間の定めのないものに転化したか、そうでないとしても、実質的に期間の定めのない雇用契約と同視できるから、Y社がした雇用契約を更新しない旨の通知は解雇権の濫用に当たり許されないとして、Y社に対し、(1)雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、雇用契約の更新を拒絶されたとする平成25年1月以降毎月11万7270円の賃金の支払いを求めるとともに、(2)Y社の不当解雇により精神的苦痛を受けたとして、不法行為に基づく慰謝料160万円の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件雇用契約に係る雇用契約書には、契約の更新に関する記載はなく、3か月の雇用期間が終了する前に、新たに雇用期間を3か月とする雇用契約書を作成しており、当然更新を重ねたことはないこと、訴外会社とXとの間の雇用契約は、訴外会社が警備業務を受託しなくなったことにより、雇止めを受けて終了したのであり、本件雇用契約は、訴外会社とXとの間の雇用契約とは、法的には全く別のものと評価されること、本件雇用契約の更新回数は、14回にわたっているものの、本件雇用契約の期間は3か月であるから、通算して3年9か月であること、Xは、上記のような経緯でY社に採用された際に、既に65歳になっており、Xと同様に、Y社に採用されることになった者の中には、Xよりも高齢の者も複数いたが、いずれも、既に退職しており、Y社から雇止めを受けた者もいること、Xは、本件雇止めの当時、本件施設の派遣隊員の中では最高齢の68歳で、次回の更新をすれば69歳に達するという者であったこと、本件施設は、複雑な構造をしており、かつ、車両認証システムや専門の管制室が備えられており、これらの点に適切に対応し得る判断力や俊敏さが求められていることが認められ、これらの事情に照らせば、本件雇用契約は、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在しているとも、期間満了後にY社が雇用を継続すべきものと期待することに合理性があるものともいえないから、いわゆる解雇権濫用法理を類推適用する余地はない。

2 これに対して、Xは、更新に合理的期待があったとして、①Y社が、採用面接や新任研修時に、元気であればいつまででも働いてもらってよい、FK店では75歳を過ぎても元気で頑張っている人がいるなどの発言をしたこと、②Y社が、本件雇用契約の次回の更新後の日に予定されている警備員現任教育受講案内をXに送付したこと、③Dが、平成25年1月のシフト表の変更を命じなかったり、Xが同月1日及び2日に出勤したにもかかわらず、強い指導をしなかったこと等と主張する。
しかし、①については、Y社代表者は、そのような発言をしたことを否定しており、また、Y社が当時から、ISO9001の認証を受けており、その登録継続や競合他社との競争力の強化のために、正社員の構成比率を高め、若返りを図ることを進めていたと推認されるところ、Y社代表者が、Y社の企業方針に沿わない趣旨の言動をするとは考えにくい。
また、②については、Dが甲7の送付は、単にY社本部における事務手続き上の間違いに過ぎない旨の供述をしていることに照らせば、上記の事実を過度に評価すべきではない。
さらに、③については、Dは、既に、平成24年9月に、Xに対し、本件雇止めについて告げていること、平成25年1月分のシフト表にXが記載されていることに気付かなかったこと、平成25年1月1日、2日に、Xに対し、出勤の必要はない旨を重ねて述べていることは、上記認定のとおりである。
したがって、Xの上記主張は、いずれも採用することができない。

有期雇用の場合は、雇用期間満了ごとに、自動更新にせずに、しっかりと新たに雇用契約書を作成することが大切です。
また、雇止めに期待を抱かせる言動は安易にしないことが大切です。

加えて、過去の裁判例を研究し、裁判所が重要視している点を頭にしっかり入れておくことが求められます。

弁護士法人 栗田 勇法律事務所「有期労働契約」有期労働契約60(警備会社A事件)より 2016/2/19

2016年10月5日水曜日

警備員の仮眠時間の労働時間性~ビソー工業事件(仙台高裁平成25年2月13日判決)

弁護士法人 天満法律事務所「判例・事例」警備員の仮眠時間の労働時間性~ビソー工業事件(仙台高裁平成25213日判決)より 2015929


1 はじめに

今回は、警備員の仮眠時間が労働基準法上(以下、「労基法」といいます。)の「労働時間」に該当するかどうかが争われた裁判例をご紹介します。
労基法上の「労働時間」とは、「労働者が使用者の指揮監督のもとにある時間」と定義され、工場作業員の始業前・終業後の更衣・移動時間や始業準備行為の時間も「使用者から義務付けられ、または余儀なくされていた」といいうる場合には「労働時間」にあたるとされています。
「労働時間」に該当する場合には、労働契約に基づき賃金が発生することになりますし、労基法上の労働時間規制にも服することになります。
過去、最高裁は、ビル警備員の夜間仮眠時間が労基法上の「労働時間」に該当するかどうかが争われた事件(大星ビル管理事件(最高裁平成14228日判決))で、「不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されてない場合には労基法上の労働時間に当たる」とした上、「仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられている」として労働時間該当性を肯定していました。
とくに同最高裁判例では「実作業への従事の必要が生じることが皆無に等しい」といえるような事情がなければ、労働からの解放が保障されているとはいえない(つまり、仮眠時間も「労働時間」に該当する。)との厳格な判断をしていました。

2 ビソー工業事件

今回ご紹介する裁判例は、労働からの解放の保障、言い換えれば、実作業への従事の必要が生じることが皆無に等しいといえるような特段の事情があるかどうかが争われたもので、裁判所がこれを肯定した実務上注目される裁判例です。

(事案の概要)

Xらは、Y社に雇用され、A病院の警備員として勤務していた。
Xら警備員の就業時間は警備員らが作成した勤務ローテーション表によって決められ、4名の警備員が配置され、そのうち1名が守衛室で監視警備等業務に当たり、1名が巡回警備業務に当たる傍らまたは守衛室に待機して突発的な業務が生じた場合にこれに対応する態勢がとられていた。
仮眠をとる警備員はシャワーを浴びた上、制服からパジャマやトレーナーに着替え、守衛室と区画された仮眠室に布団を敷いて就寝していた。仮眠休憩時間中に突発的な業務に対応して実作業を行った場合は当該実作業に相当する時間外手当を請求するように指示されていた。

(裁判所の判断)

本件第一審は、仮眠時間を「労働時間」に該当するとしましたが、第二審仙台高裁は以下の点を指摘して、結論としてXら警備員の仮眠時間は「労働時間」に該当しないと判断しました(その後Xら警備員が上告しましたが上告棄却により二審判決が確定しています。)。
本件係争期間(28か月半)に10名の警備員が仮眠時間中に実作業に従事した件数は合計17件で1人当たり平均にすると1年に1件にも満たず、その上、このうち仮眠時間を中断して実作業を行ったのはわずか4件に過ぎず(注:その余は仮眠時間の開始前から行っていた業務を仮眠時間帯に食い込んで継続したか、仮眠時間の終了に先立って既に勤務に就く準備ができていた警備員がほどなく仮眠時間に入る他の警備員に配慮してか早めに勤務について対応した事例であったと認定されている。)、うち3件は地震や火災といった突発的な災害に対応したものであり、残りの1件も本来、仮眠時間中の警備員がこれを中断してまで対応しなければならなかったのか疑問が残るものであった。
A病院とY社との業務委託契約においても、ローテーション表に基づき最低2名が業務に従事中であればよく、それら2名だけで対応できない例外的、突発的な事態が生じた場合に残りの1名ないし2名の警備員も業務に対応可能な状況にあれば足りるとされていた。
以上によれば、仮眠・休憩時間中に実作業に従事した事例は極めて僅かであり、例外的に実作業に従事した場合には実作業時間に応じた時間外手当を請求することとされていたのであって、仮眠・休憩時間中に実作業に従事することが制度上義務付けられていたとまではいえない。
本件で仮眠・休憩時間が一般的、原則的に労働基準法上の労働時間に当たるとはいえない。

3 実務上の留意点

労基法上の「労働時間」に該当するかどうかは、労使間の労働契約の定め方等の形式面ではなく、実態を見て客観的に判断されます。
これまで警備員の仮眠時間については、「労働時間」に該当しない場合がどのようなケースなのか必ずしも判然としなかった面がありましたが、本裁判例は仮眠時間中に実作業に従事した頻度や、実作業に従事した場合に仮眠時間が中断されていたかどうかといった点に着目して判断しており、実務上参考になる事例といえます。

以上

弁護士法人 天満法律事務所「判例・事例」警備員の仮眠時間の労働時間性~ビソー工業事件(仙台高裁平成25213日判決)より 2015929

2号警備(交通誘導警備・雑踏警備)、問われる警備業協会”非加盟会員”の対応

安全ガード()2号警備(交通誘導警備・雑踏警備)、問われる警備業協会”非加盟会員”の対応」より 2014/06/02

警備保障タイムズより一部抜粋

「労務単価」と「社会保険未加入」問題をテーマにした。
言いたかったのは二つ。
この問題をクリアしなければ、警備業界の社会的ステータスの確立は道半ばで足踏みするということ。
それと、2号業務(交通誘導警備・雑踏警備)を主な仕事とする業者こそ、真摯に受け止めて対処してほしいという呼びかけだった。
全警協・各都道府県協会に加入していない“非会員”について、いかに意識の共有を図り、足並みをそろえて実効性を上げることが出来るかということだ。
国土交通省が3月29日に公表した平成25年度の「公共工事設計労務単価」は、交通誘導員ABとも前年比14%台の大幅な引き上げとなった。
歓迎すべきことであることは言うまでもない。
しかし、気になるのは受注のもう一方の柱である民間からの需要である。
新年度の入札状況は大詰めを迎えている。
落札価格はどのように推移しているのだろうか。
気になるところである。
“公需”が“民需”に良い影響を及ぼしていれば幸いだ。
これまで、交通誘導警備の料金が低迷する背景には、さまざまなことが指摘されてきた。
そこには、業務に波があり、安定的な経営の維持が難しいこと。
業者間の過当競争が他業種に比べて大きいこと。
さらに、経営規模が小さいことで、ユーザー主導の価格形成になり易いという側面がある。
このことは、公共工事だけでなく、民間の発注者側には「安ければよい」とする意識が存在したのだ。
俗にいうダンピング競争の要因の一つである。

求めたい非加盟業者の改革

交通誘導警備員は過酷だ。
簡単に言えば、指導教育責任者による30時間の教育で現場に立つ。
中には人件費を抑えるために交代要員を削る会社もあるだろう。
雨天でも工事が続行されれば、持ち場を離れるわけにはいかない。
施設警備にはない厳しい環境で任務を遂行しなければならないのだ。
警備業界を下支えする彼らにこそ、労務単価の上乗せと社保加入は喫緊の問題なのである。
警察庁の調べによると、全国の警備会社は9058社(平成2312月)。
全警協に加盟しているのは6812社(同24年4月)だ。
単純に計算すると、2246社が非加盟会社であり、そのほとんどを2号業者が占めていることになる。
この2号業務の経営者の人たちは、今回の問題にどのように対応するのだろうか。
「(ダンピングで)一番被害を被っているのは、一生懸命、真面目にやっているところですよ。私は会社を作ったときからそうだけど、ほぼ全員を正社員扱いして社会保険を確保した。そりゃ最初は利益出ませんよ、だけどこれは社員を長期的に雇用させ、(会社を)安定させるためには必要なことなんだ、企業として。だから今回(社保未加入問題研修会)、私は敢えて言ったんです。『すべては経営者の意識改革に尽きる』と」――。【六車 護】
 
コメント.上記にて『業務に波があり、安定的な経営の維持が難しいこと。
業者間の過当競争が他業種に比べて大きいこと。さらに、経営規模が小さいことで、ユーザー主導の価格形成になり易いという側面がある。このことは、公共工事だけでなく、民間の発注者側には「安ければよい」とする意識が存在したのだ。俗にいうダンピング競争の要因の一つである 』とあるがまさにその通りで、閑散期にダンピング競争があるのは事実。
静岡県警備業協会では、労務費単価委員会を設け活動しているが 各警備会社、繁忙期と閑散期に見積単価に差があるのは事実でなかなか労務費単価上昇に結びつかない。
警備業協会加盟警備会社、非加盟警備会社、ユーザー等が一体となり改革をしなければ、この問題解決の進展はありえない。



安全ガード()2号警備(交通誘導警備・雑踏警備)、問われる警備業協会”非加盟会員”の対応」より 2014/06/02

警備員の休憩・仮眠時間の労働時間性を認める!

仙台中央法律事務所「事件報告」警備員の休憩・仮眠時間の労働時間性を認める!(2012年1月25日仙台地裁判決)より 2012/1/30


警備員の休憩・仮眠時間の労働時間性を認める!
(2012年1月25日仙台地裁判決)

宮城県立がんセンター(以下「がんセンター」といいます。)において警備員として勤務している原告らが、がんセンターとの間で保安・防災業務委託契約を締結し、原告らの雇用主であるビソー工業㈱に対して、休憩・仮眠時間も労働から解放されているとは言えないとして、同時間分の賃金支払を請求していた訴訟において、仙台地方裁判所第3民事部(関口剛弘裁判官)は2012年1月25日、原告らの請求をほぼ認容する判決を言い渡しました。
休憩時間や仮眠時間は賃金支払の対象とはならないのが原則です。
それは、休憩時間や仮眠時間は労働者が労働から解放されて自由に過ごせる時間だからです(労働基準法第34条3項)。
逆に、休憩・仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には、「労働時間」とみなされて賃金の支払が義務づけられます。
本件は、がんセンター警備員の休憩・仮眠時間が労働からの解放が保障されたものと言えるか否かが争点となっていました。
原告らは、実際に休憩・仮眠時間中に実作業に従事した例や、がんセンターとビソー工業㈱との間の業務委託仕様書の中で、「4人以上常時配置」しておくことが求められていること(4人体制のシフトのため休憩・仮眠者を除くと4人以上常時配置ができなくなる)などの事実・証拠を提出して、休憩・仮眠時間が労働からの解放されていないことを立証しました。
その結果、仙台地裁は、「原告らは、本件係争期間において、被告から、仮眠・休憩時間中、実作業に当たるとされていた2人・・・・では対応できない事態が生じた場合に業務に従事することを、少なくとも黙示的かつ包括的に指示され、義務付けられていたというべきであって、完全に労働からの解放が権利として保障された状態にあったということはできず、被告の指揮命令下にあったと認めるのが相当である。」と判示して、原告らの請求をほぼ認容する勝利判決を得ることができました(なお、付加金までは認容されませんでした。)。
この判決を契機に警備業務に従事する労働者の労働条件が改善・向上していくことを希望します。
また、国や自治体を含め警備業務を委託する側においても、警備員の労働条件に留意した契約金額を設定するような配慮が求められます。 (弁護士 野 呂 圭)

仙台中央法律事務所「事件報告」警備員の休憩・仮眠時間の労働時間性を認める!(2012年1月25日仙台地裁判決)より 2012/1/30

警備員の人手不足はかなり深刻な問題でヤバイ件

ナマケモノ研究会「警備員の人手不足はかなり深刻な問題でヤバイ件」より 2016/01/20


突然ですが私は警備会社の常務取締役です。
これを人に言うと、「すごーい」だとか「儲かってんの?」なんて言われますが、全然違います。

親の会社だから凄くない

自分は4年くらい前に入社しましたが、所詮は親が社長の会社です。
役員になるのは必然なことではあります。
しかし、役員になったからと言って偉そうにふんぞり返ってネットサーフィンしてるわけでもありません。
この時期は自分も警備員の制服を着て現場に立つ事もあります。
何なら社長も現場に出してます。
仕事はたくさんあるのに、そもそも人がいない。

なぜ儲からないのか

まぁ儲からないってうのは言い過ぎかもしれないですが、すごく忙しい時期と暇な時期が極端なんです。
建設業や警備業の繁忙期って主に11月~3月末くらいなんですが、4月になるとめっきり仕事がなくなります。
何でなくなくなるかというと、国や区、市が工事受注の入札を出さなくなるからです。
なぜ入札を出さないのかというと、国や区で使う年間の予算が決まってないから。
なので、建設会社や警備会社は仕事があぶれていっちゃうんです。
仕事がなければやめる忙しい時期に募集して人をいれるやめるの無限ループです。
なので、繁忙期にたくさん人だして儲け出した所で暇になっちゃうと売上が落ちる。
結局年間通しての売り上げはそこまで儲かってないんです。

なぜ人が集まらないのか

それは働きたがりがいないから……と言ってしまえば真理なんですが、もっと言うと警備員の仕事が何となくダサいイメージがあるからなんじゃないかな、って思います。
そもそも警備業というのは何種類かあって、僕らは2号業務という主に雑踏警備、交通誘導警備が主な仕事です。
うちで受注しているのは道路工事や建築現場に警備員を派遣させる、交通誘導警備なんですが、何となく年配の方がやってるイメージがありませんか?
いや、実際にそうなんです。
うちで抱えてる警備員の平均年齢は50代~60代なんですよね。20代、30代が3割いるかいないか。
やっぱり若い人は外でずーっと立ってるだけで周りはおじいちゃんおばあちゃんだけの職場って何となく「ダセぇ」って思ってるんじゃないでしょうか。
でもね、僕もまだ20代なのでその気持ちはわかります。
実際最初はダセぇと思ってました。
でもね、やってみて思うのは「ダセぇと思ってる人がダセぇな」ってことですね。
自分も含め、やはり50代~60代の人の方が若い人より一生懸命働くし評判もいいです。
これはやはり年配の方が昔のバブル前の就職難を経験してたり、色んな人生歩んできた中で「働く事の大切さ」みたいなのを知ってるからだと思います。
「何となくダセぇ」とか「立ってるだけでしょ」みたいなことを思ってる人より劣るのは当然の事です。
そもそも警備員って立ってるだけじゃないし、現場によっては走り回ってる人もいるからね。
だって普通に考えて道路の真ん中に立ってるんだから死と隣り合わせみたいなことは否めないし、それを安全に誘導するってよくよく考えると大変な仕事じゃないですか?
作業する人達や、通行人や一般車に事故を起こさないよう誘導するのって楽じゃないに決まってるんですよね。
つまり、人が集まらないのは「何となくダセぇ」って思ってることや、応募したはいいけど「楽だと思ったけど楽じゃなかった」って人ばかり来るから。
極論をいってしまえば相対的に「仕事をしてない人は仕事をナメてる人」ばかりってことです。
仕事ナメてない人はどんな仕事でも、もう既に一生懸命働いてる。

じゃあ何が悪いのか

うちの会社は今年で25周年を迎えたそうですが、25年前から「人手不足」という同じ悩みを抱えてるってすごくないですか?
めちゃくちゃ悪く言うと「いつまで同じ事言ってるの?バカなの?」って感じですが、この時期になると経営者は自問自答で「いつまで同じ事言ってるの?バカなの?」って言ってます。
少なくとも僕は。
じゃあ何が悪いのか。
国が悪いのか?政治が悪いのか?という議論はそこかしこでしてますが、結論は未だに出てません。
25年うちの会社がそうってことは他の大手もそうなんだと思います。
毎年、年度末にかけてアホみたいに工事の入札がはいり、その度に警備員が足りない~!って警備会社はモチロン、依頼する建設会社の人が嘆いています。
それでも、依頼人数を削ったり休み返上で連勤してもらったりとかで何とかなるはなるんですよ。
でも、やはり年配の人ってタイムリミットがあるんですよね。
何歳まで働けるか、今いる年配の人達がいなくなったらどうなるんだとか、色々考えます。
2020年には東京でオリンピックが開催されますね。
それに向けて競技場の建設だったり、オリンピック会場の誘導員だとか、これから仕事は増える一方です。

ダセぇとか言ってる場合じゃないんですよ

そもそも東京オリンピックが決まった理由は、「日本は安全な国だから」っていうのがあるわけです。
その安全を守る警備員に対しての対価は1日8000円は妥当な数字なんでしょうか?
18000円で暮らしていけるのか、家族を養えるのか。
色んな事を警備員に対して考えなきゃいけないと思います。 
経営者の立場から言わせてもらえば、やはり所属している警備員にはちゃんとした対価を払いたいと思ってるし、充実した生活を送ってほしいと思っています。
しかし、今の国が提示している労務単価では警備員に払える額というのは80009000円が限度です。
これを言ったら炎上しかねないですが、 

国が一番警備員という仕事を「ダセぇ」と思ってる

これです。
極端だけど、労務単価の数字に出てるし、ナメてるとしか思えない。
やはり、僕は人を扱ってる仕事だし、その警備員は人の安全を守ってる仕事です。
「ダセぇ」と思う人もいると思いますが、もう一度考えてみて下さい。
誘導中に通行人からお礼を言われるのもなかなか気持ちいですよ?
 なので、無職でくすぶってる人達は是非、警備会社に面接しに行って下さい。
僕らはそういった人達の社会復帰を全力で応援しますし、これからはやはり若い人たちがやってかなきゃならんと思うのです。 
「ダセぇ」と思ってる人達、一回やってみてから「ダセぇ」と言いましょう。
やってみて尚且つ「ダセぇ」と思ったんならしょうがない、こちら側の責任なので「ダセぇ」で結構です。
ただ少なくとも、うちで活躍してる年配警備員は全然ダサくないし、若い人たちより生き生きしてます。 
最後に、もう一回言わせて下さい。

やってもない仕事を「ダセぇ」と言ってる人が「ダセぇ」

以上です。
面接のご連絡、待ってます。

ナマケモノ研究会「警備員の人手不足はかなり深刻な問題でヤバイ件」より 2016/01/20


仮眠や待機時間には実労働時間として賃金が支払われるか?

労働トラブルねっと!「仮眠や待機時間には実労働時間として賃金が支払われるか?
」より・2016/7/22


夜警の警備員などは、警備時間中に仮眠時間が設けられている場合があります。
たとえば、勤務時間が午後5時から翌朝の7時までとなっている場合であっても、そのうち6時間が仮眠時間として設けられているといった感じです。
また、工場や現場での作業などの場合には、作業の都合上、仕事中に待機時間が設けられ、その時間は何の仕事もしないでただ事務所などで待機するといったことも行われている場合があります。
ところで、このような仮眠時間や待機時間は、労働時間に含まれるのでしょうか?
会社によっては、このような仮眠時間や待機時間を労働時間として認めず、その時間にあたる賃金を支払わない場合もありますが、仕事上発生する仮眠時間や待機時間であるため賃金が支払われないのは理不尽な取扱いのようにも思えます。
そこで今回は、仮眠時間や待機時間は実労働時間に含まれるのか、という問題について考えてみることにいたしましょう。

仮眠や待機時間であっても「会社の指揮命令下」に置かれている場合には「実労働時間」にあたる

仮眠機関や待機時間が実労働時間に含まれるかどうかは、作業の準備時間や作業着への着替えの時間と同様に、その時間が「使用者(会社)の指揮命令下に置かれているか」という点で判断されます。

作業の準備や掃除、着替えや準備体操の時間は労働時間となるか?

そのため、たとえ仮眠時間や待機時間をとることが認められている場合であっても、その仮眠時間や待機時間に外出することを禁じられていたり、緊急時における対応を義務付けられている場合には「会社の指揮命令下」にあると判断されるため、その時間は「実労働時間」に含まれることになります(大星ビル管理事件|最高裁平成14年2月28日)。
そして、仮眠時間や待機時間が「実労働時間」と判断されるのであれば、たとえ仮眠時間や待機時間とされる場合であっても、使用者(会社)はその時間について賃金(時間外手当)を支払わなければならないということになります。
仮眠時間の場合

警備員などの仮眠時間については、その仮眠時間に緊急時の対応や電話への応答が義務付けられている場合には、たとえ仮眠時間に一度も呼び出しや電話連絡がなかったとしても「労働時間」になると考えられます。
このような仮眠中の警備員は実際には眠っていて仕事をしていないとしても、緊急時には対応することが義務付けられていますし、連絡が入れば対応することが必要とされているため、業務から完全に解放されているというわけではなく、あくまでも会社の管理下(指揮命令下)にあると言えますので、仮眠中の時間は実労働時間と判断されるのです。
そして、仮眠中の時間が実労働時間と判断されるということは、仮眠中の時間についても賃金が支払われなければならないということになります。
待機時間について

待機時間についても警備員の仮眠時間と同様に考えて問題ありません。
作業の狭間にある待機時間(手待ち時間)についても、その時間待機しているということは待機時間終了後直ちに作業に取り掛かることが会社側から義務付けられているということがいえますので、仕事から完全に解放されているということにはなりませんから待機時間についても実労働時間に含まれるということになります。
たとえば、ショップの店員にお昼の休憩が1時間与えられている場合に、休憩時間にお客が入った場合は対応が義務付けられているような場合には、その休憩時間は待機時間であって休憩時間ではありませんので、たとえその1時間の休憩時間にお客が1人も来店しなかったとしても実労働時間としてその1時間にあたる賃金(法定時間を超える場合は時間外労働の割増賃金)を会社に請求できるということになります。
実労働時間に含まれる限り、たとえ待機の時間で実際に働いていない時間があったとしてもその時間全てにおいて賃金が支払われなければならないということになります。
仮眠や待機時間に賃金(時間外手当)が支払われない場合の対処法

前述したように、仮眠や待機時間とされる時間であっても、その時間が会社の指揮命令下に置かれているということができ、何らかの対応が義務付けられている場合には、労働時間として賃金(時間外労働の割増賃金)の支払いを請求することができます。
しかし、全ての会社が法律を遵守しているとは限りませんので、仮眠や待機時間について賃金(時間外労働の割増賃金)を支払わない会社については何らかの対処が必要となります。
     仮眠や待機時間の賃金(時間外労働の割増賃金)の支払いを求める請求書を郵送する

上司などに仮眠や待機時間が労働時間に含まれることを説明しても賃金(残業代※時間外労働の割増賃金)を支払わない場合には仮眠や待機時間の賃金(時間外労働の割増賃金)の支払いを求める請求書を郵送してみるのも一つの方法として有効です。
特に、請求書を内容証明郵便などで送付すれば「こいつ、ほっといたら弁護士なんかに相談して厄介なことになるかもしれないな」と考えてあっさり支払うかもしれませんし、内容証明郵便でコピーをとっておけば後で裁判になった際に「仮眠(待機)時間が労働時間に該当することを説明してもなお支払ってくれなかった」ということを証明する証拠にすることもできますので書面で郵送することは大きな意義があります。

② 労働基準監督署に違法行為の是正申告を行う

使用者(会社)が労働基準法に違反する行為を行っている場合には、労働基準監督署に違法行為の是正申告を行うことで監督署の会社に対する臨検や調査を促すことができます。
この点、仮眠や待機時間が労働時間に含まれるにもかかわらず、会社が残業代(時間外手当)を支払わないという場合も、時間外労働をさせた場合は割増賃金を支払わなければならないと規定した労働基準法第371項に違反することになりますので、労働基準監督署に違法行為の是正申告を行うことが可能です。
違法行為の是正申告によって労働基準監督署から臨検や調査が行われ、会社の違法行為が明らかになれば会社が仮眠や待機時間について残業代を支払わないということを改善するかもしれませんので、監督署への違法行為の是正申告によって間接的に会社から仮眠や待機時間の時間外手当を支払ってもらうことが期待できるようになる可能性があります。
もちろん、違法行為を申告するだけですので手数料などの費用は全く発生しません。
もっとも、労働基準監督署は基本的に労働基準法に違反しているかいないかを調べる機関であって、監督署が労働者の代わりに未払いの賃金(この場合は仮眠や待機時間の時間外労働に関する割増賃金)を請求してくれるわけではありませんので、監督署の臨検や調査によっても会社が支払わない場合には、後述する裁判などを提起して請求していく必要があります。
③ 労働局に紛争解決援助の申立やあっせんの申立を行う

各都道府県に設置された労働局では、労働者と事業主の間に紛争が発生した場合に、当事者の一方からの申立があればその紛争解決に向けた助言指導、裁判所における調停に似た手続きであるあっせんの手続きを行うことが可能です。
この点、仮眠や待機時間が労働時間に含まれるにもかかわらず会社が残業代(時間外手当)を支払わないというトラブルについても、労働者と会社(事業主)の間に紛争が発生しているということがいえますので、労働局に対して紛争解決援助の申立やあっせんの申立をすることができます。
会社側が労働局の援助の申立やあっせんに応じるような場合には、第三者を交えた話し合いが可能となりますので、まともな会社であれば違法性を認識して仮眠や待機時間の賃金を支払うようになるでしょう。
なお、この労働局の援助申立やあっせんの手続きも無料となっていますので経済的に余裕がないという人も安心して利用することができると思います。
もっとも、労働局の紛争解決援助における助言や指導、あっせんで示される解決案は裁判と異なり強制力がありませんので、会社が労働局の示す指導や解決案に従わない場合は、後述する裁判などを提起して請求していく必要があります。
④ ADR(裁判外紛争解決手続)を利用する

ADRとは、弁護士などの法律専門家が紛争の当事者の間に立って中立的立場で話し合いを促す裁判所の調停のような手続きのことをいい、裁判所以外で紛争を解決することを目的としていることから裁判外紛争処理手続とも呼ばれています。
当事者同士での話し合いで解決しないような問題でも、法律の専門家が間に入ることによって要点の絞られた話し合いが可能となることや、専門家が間に入ることで違法な解決策が提示されることがないといったメリットがあります。
また、裁判所に行くのに抵抗があるような人でも利用しやすいといった精神的なメリットや、裁判所の調停よりも少ない費用(調停役になる弁護士などに支払うADR費用、通常は数千円~数万円)で利用できるといった経済的なメリットもあります。
会社が仮眠や待機時間について時間外手当を支払わないという問題もADRを利用して話し合いをもつことで会社側が姿勢を改善し、残業代を支払うようになるかもしれませんので、ADRも一つの解決方法としては適当かもしれません。
なお、ADRの利用方法は主催する最寄りの各弁護士会などに問い合わせれば詳しく教えてくれると思いますので、興味がある人は電話で聞いてみると良いでしょう。
     弁護士などの法律専門家に相談する

労働基準監督署への違法申告や労働局での話し合いなどでも解決しない場合には、弁護士などの法律専門家に相談し、通常の民事訴訟や労働審判、裁判所における調停などの手続きを利用して会社に仮眠や待機の時間で発生した時間外手当(割増賃金)を請求していくほかないでしょう。
弁護士などに依頼するとそれなりの報酬を支払う必要がありますが、その報酬以上に時間外手当が発生している場合には裁判などをするメリットもあるでしょう。
なお、裁判によって時間外手当を請求する場合には不払いとなっている残業代のほかに付加金という不払いになっている金額と同額の制裁金も請求することも可能です。
そのため、裁判で時間外手当を請求する場合には、示談交渉などで請求する場合の2倍の金額を請求できることになりますので、勝訴する可能性が高い場合には弁護士などの専門家に裁判を行ってもらうと会社が付加金を支払うことを嫌って早期に和解に応じてくることも期待できるでしょう。

労働トラブルねっと!「仮眠や待機時間には実労働時間として賃金が支払われるか?
」より・2016/7/22


過労死に追い込まれる警備員――霞が関委託業務の現状 背景に低入札と労働ダンピング

国公労連「過労死に追い込まれる警備員――霞が関委託業務の現状
背景に低入札と労働ダンピング」(国公一般すくらむブログ2012-04-10)より


【とりくみ:官製 ワーキングプア】2012-04-10
※「連合通信・隔日版」からの転載です。

「連合通信・隔日版」201245日付No.8582

過労死に追い込まれる警備員――霞が関委託業務の現状
背景に低入札と労働ダンピング

国の財政支出削減で、中央官庁の警備員が過労死に追い込まれている。
外務省本庁舎の警備業務に携わっていた当時58歳の男性が昨年、帰宅途中に胸部大動脈りゅう破裂を発症し、翌日亡くなった件について、渋谷労働基準監督署が労災認定していたことが4月2日、分かった。
歯止めのない低入札競争が背景にある。

◆無理な人員配置

男性は、外務省本庁舎の警備保安業務を受注していた「ライジングサンセキュリティサービス」の社員。
庁舎の出入口で、不審者の進入に目を光らせる立しょう業務や、訪問者の受付などを行っていた。
弁護団の調べによると、発症前2カ月の週40時間を超える法定外残業はともに月140時間超に及んだ。
同省の朝礼に合わせて始業より1時間早い午前7時には出勤し、休憩も満足にとれないまま午後7~8時まで勤務していたという。
渋谷労基署は、同2カ月間の残業が月平均80時間を超えていた事実を確認し、「業務上」と認定した。
こうした長時間過密労働の直接の要因が、高い離職率に伴う慢性的な人手不足にあった――と、遺族の弁護団は指摘する。
23箇所ある「警備保安ポスト」に、同社はギリギリの27人程度しか配置していなかったというのである。
猛暑や厳寒期でも、神経を張りつめて外に立ち続けなければならない仕事。
霞が関で働く警備員の待遇改善を訴え続けている中川善博・ライジングサンユニオン委員長は、「通常『警備保安ポスト』の約1.5倍の人員を配置しないと、トイレにも満足に行けなくなる。
体力的には相当きつかったはず」と驚きを隠さない。

◆わずか41%の低落札率

見過ごせないのは、この不幸な出来事が「氷山の一角」と見られることだ。
支出削減を進める外務省が本庁舎の警備保安業務に一般競争入札を初めて導入したのが2009年度。
ライジング社はその09年度に予定価格のわずか41%、10年度は同48%で落札した。
この半値にも及ばない低入札が、極度の人件費抑制と、最低賃金割れやサービス残業などの労働法違反で支えられていると、前述の中川委員長は警告する。
余裕をなくした職場で、男性は現場責任者から外見についての執ような暴言を受けていたとも弁護団は指摘している。
劣悪な労働条件は離職率を高め、そのことがさらに労働環境を悪化させる「悪循環」。同社では今年、既に4人が脳血管障害などで倒れたという。

◆弱い立場の人が犠牲に

根底には、「人への投資」を十分に行う企業は、事実上参入できないという入札制度の問題がある。
同省では一定額に満たない入札を無効とする「最低制限価格」や、労働条件確保と労働環境整備を入札の要件とする仕組みがない。
結果、価格競争に偏重し、「セコムやアルソックなど、福利厚生にお金をかけている大手企業は参入しない」(中川委員長)という状況が生じている。
過労死問題に詳しい川人博弁護士は「行政側も(委託先)警備員の状況に目を配らないといけない。
その意味では現代的な課題だ」と述べ、公契約ルールの策定が必要と指摘する。
省庁の支出削減が好意的にとらえられがちな今日、公共サービスの最末端で働く人を過労死や貧困に追い込んでいる事実はまだあまり知られていない。
男性の妻は語る。
「環境の悪い体制で働かなければならない弱い立場の人たちが、犠牲になってしまっているのが事実ではないでしょうか」

国公労連「過労死に追い込まれる警備員――霞が関委託業務の現状
背景に低入札と労働ダンピング」(国公一般すくらむブログ2012-04-10)より


「無線機持つ休憩は労働時間」

警備保障タイムズ「無線機持つ休憩は労働時間」2016.7.21より


東京地裁判決 警備員の訴え、認める
国の労災補償不支給は違法

東京地方裁判所は714日、脳内出血を発症した警備員が労災保険の休業補償給付を請求したにもかかわらず、国が認めなかったことを不服とする裁判で、「無線機を携帯させ、警備敷地内から出ることを認めない休憩は、労働時間に当たる」との判断を示し、発症は長時間労働が原因と認めた。
今後、警備員への休憩の与え方に大きな影響を与えそうだ。

長時間労働で脳内出血発症

都内の警備会社に勤務していた警備員(当時50)が平成242月、夜間勤務に出かける前に自宅で脳内出血を発症した。
同警備員は同年8月、「発症は長時間労働が原因」として労働基準監督署に労災保険の休業補償給付の支給を申請。
しかし、同労基署は253月に“不支給”を決定した。
このため警備員は、同年12月に東京地裁に提訴した。
現在も右半身まひや言語障害などの後遺症に苦しみ、リハビリを続けている警備員は当時、埼玉県和光市内の税務大学校の警備に従事していた。
業務内容は、構内への出入り管理や立哨、巡回警備、火災警報装置や防犯センサーの監視や発報への対応などで、隊長1人と同警備員を含む2人の副隊長、隊員など計9人で勤務していた。
勤務シフトは、日勤が午前10時から午後7時まで、夜勤が午後7時から翌午前10時まで、そのほかに午前10時から翌午前10時、午前10時から午後1011時などの組み合わせだった。
休憩や仮眠は、警備室のある管理棟の受付け後ろや地下1階の待機室が使用され、待機室は内線電話でつながれていた。
また、休憩中は、敷地内の食堂や喫煙室へ行くことは可能だったが、緊急時の対応のために敷地の外へ出ることは許されず、常に無線機を携帯することが求められていた。
裁判では、この休憩時間や仮眠時間などが労働時間に該当するかが争点となった。
判例(平成123月の最高裁判決)では、労働基準法上の労働時間は、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間とされ、たとえ実作業に従事していなくても、使用者の指揮命令下に置かれている場合には労働時間とみなされる。
同裁判所の清水響裁判長は、同判例を拠り所に「常に無線機を携帯させ、敷地外にも出さないのは、労務提供が義務づけられている実質的な待機時間」とし、休憩時間を労働時間として認定した。
その上で、警備員の休憩時間を労働時間と見なして発症前の労働時間を算出したところ、発症1か月前は148時間の時間外労働(25日勤務でうち18日夜勤、丸1日の休日は2)2か月前は157時間(24日勤務でうち19日夜勤、休日は3)など、1か月の時間外労働が、健康障害のリスクが極めて高くなるとされる100時間を超える長時間労働の実態が判明した。
このため、清水裁判長は「発症6か月前からの恒常的な長時間労働などの負荷が作用した結果、疲労の蓄積が生じて、疾病を発症した」と、発症と長時間労働との因果関係を認めた。
その上で、休業補償給付の支給を認めなかった国の処分は違法だと判断した。

警備保障タイムズ「無線機持つ休憩は労働時間」2016.7.21より

高血圧症を有していた労働者の脳梗塞発症につき、安全配慮義務違反が認められた裁判事例(富士保安警備事件)

一般社団法人日本産業カウンセラー協会 こころの耳ポータルサイト「事例紹介」高血圧症を有していた労働者の脳梗塞発症につき、安全配慮義務違反が認められた裁判事例(富士保安警備事件)より


〔判 決〕

第1審:東京地方裁判所判決 平成8年3月28日 労働判例694号34頁

1 概要

年齢・性別:68歳(死亡当時)、男性
業種・職種:警備業務
疾患名:脳梗塞(死亡)
既往歴・生活歴:高血圧症、喫煙

2 事実経過

Aは、1977年に入社し、病院における夜間及び休日の警備業務に従事していました。
入社当初から高血圧を指摘されていましたが、1988年4月に冠不全・高血圧症と診断されて以降、降圧剤の投与を受けていました。
Aの最高血圧は、内服を続けている場合は安定していましたが、服用しないと150ないし160になることがありました。
1990年4月23日、Aは、宿直室で脳梗塞を発症しているところを発見され、意識が回復しないまま、同年5月9日に死亡しました。
Aの労働時間は、脳梗塞発症前の4週間で、拘束時間が432時間、労働時間が320時間であり、その間休日がまったくありませんでした。
また、仮眠用のベッドは、当直勤務の事務職員待機場所と同一の6畳間に置かれ、安眠することが困難な環境でした。
Aは、入社以来、同様の警備業務を12年間以上にわたって行ってきました。

3        裁判の経過等

Aの遺族は、会社及び代表者に対し、安全配慮義務違反を主張して、2,000万円の損害賠償を請求しました。
裁判所は、会社と代表取締役の安全配慮義務違反を認めましたが、Aの身体的素因が考慮され、損害額の60パーセントが減額されました。
最終的に認められた損害額は、弁護士費用を含めて、約1,000万円とされました。

4 判決のポイント
 
裁判における主な争点は、ⅰ.Aの業務と脳梗塞発症との間に相当因果関係があるか、ⅱ.会社及び代表取締役に安全配慮義務違反があったか、の2点です。
判決では、ⅰの点について、発症前のAの労働時間が、労働基準法の最低基準に違反していることは明らかであり、作業環境や長年の労働態様を見ても、Aの業務は過重であると判断されました。
他方、Aの基礎疾患や、68歳という年齢、1日10本の喫煙習慣があったことなどについては、これらの自然的経過のみをもって脳梗塞を発症したとまでは認められないとされました。
その結果、Aの脳梗塞発症は、基礎疾患等と過重な業務の遂行とが共働原因となって生じたものとされ、業務と発症との間に相当因果関係があると判断されました。
次に、ⅱの点について、会社は安全配慮義務、具体的には、「労働時間、休憩時間、休日、休憩場所等について適正な労働条件を確保し、さらに、健康診断を実施したうえ、労働者の健康に配慮し、年齢、健康状態等に応じて、労働者の従事する作業内容の軽減、就業場所の変更等適切な措置をとるべき義務」を負っていたにもかかわらず、これらの措置をまったくとらなかったとして、会社に安全配慮義務違反があったと判断されました。
また、本件会社は、従業員数が30名程度であり、業務全般を統括管理していた唯一の常勤取締役たる代表取締役個人についても、会社と同様の安全配慮にかかる義務を負うものと判断され、民法709条に基づき、損害賠償が命じられました。

一般社団法人日本産業カウンセラー協会 こころの耳ポータルサイト「事例紹介」高血圧症を有していた労働者の脳梗塞発症につき、安全配慮義務違反が認められた裁判事例(富士保安警備事件)より