最高裁、上告を棄却 仮眠・休憩時間は労働時間外 | 警備業界、警備会社、警備員における問題点   

2016年10月7日金曜日

最高裁、上告を棄却 仮眠・休憩時間は労働時間外

警備保障タイムズ「最高裁、上告を棄却 仮眠・休憩時間は労働時間外」より 2014/9/21

http://keibihosho.blogspot.jp/2014/09/blog-post_37.html

警備員らの請求退ける

官公庁のビル管理や警備業務を行うビソー工業(埼玉、戸張四郎社長=当時)が業務委託された宮城県立がんセンターの警備業務における賃金等請求控訴事件で8月26日、最高裁は上告を棄却。
仮眠・休憩時間がすべて労働時間であるとの主張を退け、警備員らの請求を棄却した。【新野雄高】

賃金支払い求め労働審判

宮城県立がんセンターに勤務する警備員8人は平成22年2月、勤務先のビソー工業を相手取り、未払いの賃金並びに時間外・深夜割増手当、付加金など総額約5300万円の支払いを求める労働審判を仙台地裁に申し立てた。
同社は平成19年4月、がんセンターとの業務委託契約に基づき、従前の受託企業に雇用され就労していた警備員11人を引き続き雇用し労働契約を締結した。
警備員らは賃金の引上げや有給休暇の完全取得などの実施を求め同社と交渉、労働基準監督署への申告を繰り返した後、8人が休憩と仮眠時間中も拘束されるが労働時間外として賃金は支払われていないと訴えた。
労働審判は3回の審理を経て、審判官は一部時間外労働について申立人1人あたり12万円を同社が支払うという和解案を提示したが、これを申立人が拒否。
通常訴訟に移行することとなった。

仙台地裁、主張認める

仙台地裁は平成24年1月25日、警備員らの主張を認め、一部時間外労働などの賃金とこれに付帯する利息の支払いを命じる判決を言い渡した(ただし、損害賠償、慰謝料などの請求は退けた)。
同社は①仮眠・休憩時間は労働から解放された時間にあたるかは、その時間に実作業に従事した割合ないし頻度から客観的に判断すべき②原告らの主張する「最高裁大星ビル管理事件判決」(右下記事参照)は、警備員が仮眠時間中1人で待機し警備業務などに従事していたもので、本件は4人体制で2人ずつ交代制で休憩・仮眠をとっているため事案を異にする③実際、休憩・仮眠時間についた実作業への従事割合は極めて低い④仙台労働基準監督署の指導を受けた際、休憩・仮眠時間の割増賃金の不払いの指摘を受けたことはないの4点を主張した。
判決では、実作業に従事していない時間が労働時間に該当するかは、使用者の指揮命令下に置かれていたと評価できるかにより、客観的に定まると解される。緊急時、実作業に従事することが義務づけられている場合、それが皆無に等しいなど実質的に義務づけられていないと認められる特段の事情がない限り、労働基準法上の労働時間に当たるべき(最高裁大星ビル管理事件判決)との判断を示した。
 
仙台高裁は範囲限定

同社は平成24年1月、仙台高裁に控訴。警備員らは休憩・仮眠時間中といえども、待機が義務づけられ非常事態に備えて緊張感を持続しておく必要があることから、時間外労働として割増賃金並びに損害賠償金の支払いを主張。
平成25年2月13日、仙台高裁は次のように判決を下した。
仮眠・休憩時間が一般的、原則的に労働時間に当たると認めることはできない。
実際に作業に従事した場合の時間外労働として、その時間に相当する未払い賃金を請求することができるに留まるとした。
 
原告側が上告

仙台高裁の判決を受けて警備員らは上告したが、8月26日、最高裁は上告を棄却。高裁判決が確定した。なお、上告受理申立ても認められていない。
本件の上告理由は、違憲及び理由の不備・食い違いをいうが、実質は事実誤認または単なる法令違反を主張するものであって、民事訴訟法318条1項または2項に規定する事由に該当しないとの判断が最高裁より示された。

皆川潤弁護士のコメント

私は、本件控訴審から訴訟を担当したので、以下は控訴審からの視点でのコメントである。
控訴審においてまず留意したいことは、警備員の労働実態をなるべく詳細に明らかにし、仮眠・休憩時間中に実作業に従事する必要性が生じることが皆無に等しい状況であったことを裏付けることであった。
具体的には、警備員の1日の勤務内容(勤務ローテーション)と警備員が主張する仮眠・休憩中の時間外労働の内容を分析し、そもそも仮眠・休憩時間を中断してまで従事する必要があった作業はほとんどないこと、大半の作業は、仮眠・休憩時間の開始、終了前後の時間に行われており、警備員は仮眠・休憩時間を継続して取得し、労働から解放されていること、仮眠時間を中断している場合も、中断してまで行う必要のない業務であったことなどを87件の事例について詳細に主張したものである。
判決では会社側の詳細の主張について、ほぼその通りに認定がされ、仮眠・休憩時間中の実作業に従事する必要性が生じることが皆無に等しい状況であったとの結論に至っている。
本件では、実際に警備を行っている病院からは、契約条件の解釈などビソー工業の主張に対して否定的な見解が出されていた点を懸念材料と考えていたが、上述の通りの具体的労働実態の分析結果が、より重要なポイントとなった。
本件控訴審判決は、特殊な具体的事情が裁判所に理解された事例的な判断であり、同様の訴訟においては、いかに具体的な事情を主張できるか、その前提としての日々の業務実態を把握できているかが重要であると考えられる。

戸張四郎ビソー工業代表取締役会長の談話

今般の最高裁決定は、当然の結果と考えております。
一審の地裁判決が事実認定を誤り原告の主張を丸呑みしたことには憤りを禁じえません。
しかし、控訴審の高裁で休憩・仮眠時間中の時間外労働など事実を詳細に検討した上での判決には満足しており、弁護団の努力の賜物です。
今般の一審判決が当たり前とされるのなら警備業界の経営に与える影響は計り知れません。
また従業員をこのような訴訟に扇動した独立系労働組合があったように聞いております。
真摯に運動に取り組む多くの労働組合にとっても大変迷惑なことだと思います。

大星ビル管理事件(割増賃金請求控訴事件)

裁判年月日:平成8年12月5日、東京高等裁判所

ビル管理会社の従業員は、ビル設備の運転操作、ビル内巡回監視などに従事。
毎月数回、24時間勤務に従事し、その間、仮眠時間が連続8時間与えられていたが、仮眠室に待機し、警報が鳴るなどすれば直ちに所定の作業を行うこととされ、そのような事態が生じない限りは睡眠をとってよいことになっていた。
24時間勤務に対しては泊まり勤務手当を支給し、突発的作業等に従事した場合のみ、時間外手当及び深夜手当を支給していた。
従業員は、仮眠時間は現実に作業を行ったかにかかわらず、すべて労働時間であり、労働契約に基づき仮眠時間に対し時間外勤務手当を、深夜の時間帯に対し深夜就業手当を支払うべきと主張。未払い賃金などの支払いを請求した。

原審は、①仮眠時間は労働時間に当たるとした上で、労働契約上時間外勤務手当などを支給する合意はなかったとして、従業員の請求を全面的に認容した一審判決を変更し、②仮眠時間のうち変形労働時間制のもとで法定労働時間を超える部分及び労働基準法上の深夜労働に当たる部分についてのみ割増賃金の支払いを命じた。

最高裁は①仮眠時間は労働基準法上の労働時間に当たるが、労働契約上はこれに対して時間外勤務手当を支給する合意はないとした上で、②労働基準法上の時間外労働に当たる時間には割増賃金を支払うべきであるところ、管理会社が採用する変形労働時間制が〝労働基準法32条の2〟の要件を充足しているかについて原審は判断しておらず、また変形労働時間制が適用されることを前提としても、その時間外労働の算出方法は是認することができない。
この部分についての原審の判断部分は法令の解釈適用を誤った違法があるとして破棄し、原審に差戻しを命じた。

労働基準法32条の2(1か月単位の変形労働時間制)
 
1か月単位の変形労働時間制とは、夜間勤務者や隔日勤務者の他に、月初め、月末、特定の週などによって業務の繁閑差がある事業の労働者について利用される制度のこと。

労使協定または就業規則、その他これに準ずるものによって、以下の事項を定めて所轄の労働基準監督署長に届け出なければならない。

1.1か月以内の一定期間を平均し、1週間あたりの労働時間が法定労働時間を超えないこと
2.対象となる労働者の範囲
3.変形期間(1か月以内)および変形期間の起算日
4.変形期間の各日および各週の労働時間
5.労使協定(労働協約である場合を除く)による場合はその有効期間

警備保障タイムズ「最高裁、上告を棄却 仮眠・休憩時間は労働時間外」より 2014/9/21

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