テイケイ事件・東京地判平23・11・18 労判1044号55頁 | 警備業界、警備会社、警備員における問題点   

2016年10月6日木曜日

テイケイ事件・東京地判平23・11・18 労判1044号55頁

ロア・ユナイテッド法律事務所「労働法レポート」より 2012/8/20


【判示事項】

①原告Xの言動等について,被告Y社が本件解雇にかかる解雇事由として主張する事項(Xの業務引継帳への記載,Xへのクレーム,Xのリーダーに対する言動,配属拒絶,勤務配置にかかる言動,上司・同僚への損害賠償請求メール送信,上司への対応,会長への抗議文の送付等)は,その存在が認められないか,解雇事由に該当すると認められないか,または解雇事由に該当するとしても当該事由に基づいて解雇することが客観的合理性および社会的相当性を有するとはいえないものであり,本件解雇は,それ自体権利濫用に該当し,不法行為に該当するとされた例(Y社の同方針にもかかわらず,Xが週7日勤務希望と記載した勤務予定表の提出を継続し,そのためにY社の配置担当者がXの休日の調整を別途することとなったことについては,就業規則31条(服務の原則)8項「会社の方針,諸規定を守り,上司の指示・命令に従うこと」および同条16項「職場内の風紀秩序を常に配慮し,自分勝手な行動をとらないこと」に抵触する側面があることは,否定できなとしつつ、「①Xの賃金が時給制であり,勤務日数や勤務時間の減少は,収入減少に直結するものであること,②……原則週6日勤務への変更が,何らの事前説明や協議がされることなく行われ,その後もこの点についてXに対して必要かつ十分な説明がされてはいないこと,③Xは,勤務予定表に週7日勤務を希望する旨記載して提出しつつも,Y社から週6日勤務の方針の維持を伝えられれば,同方針に従って勤務を継続していたものであること,がそれぞれ認められ,これらのことを踏まえると,Xが週7日勤務希望と記載した勤務予定表を提出し続けた主な要因として,Y社が,週6日勤務の方針について,Xの収入減少に直結する重要な労働条件の変更に準じた事柄であるにもかかわらず,その理解と納得を得る手続を踏まなかったことが指摘できるのであって,このような要因に基づくXの行動を解雇事由とすることには,客観的合理性及び社会的相当性があるとはいえない」とした)
② 差別的な勤務数減少その他の言動について,Xが不法行為を構成する事実として主張する事柄は,その存在が認められないか,または独立の不法行為を構成する程の違法性を有するものであったと評価することはできないとされた例
③ 勤務数減少について,①労基法上,使用者は,労働者に対して,毎週少なくとも1日の休日を与えなければならないものとされており(同法35条1項),Y社がXについて原則週6日勤務とすることとした措置は,同法所定の当該義務を履行する側面を有するものであること,②X以外にもY社において概ね週1日の休日を取っている者がいると認められ,Y社がXのみを差別的に取り扱って週1日の休日を取らせることとしたものとは評価しがたいことからすれば,Xについて原則週6日勤務とすることとしたY社の措置自体が違法性を有し,不法行為を構成するとまでは評価できないとされた例
*会社への批判や賠償請求メール発信等の動機、経緯を踏まえ、解雇無効とした例、勤務割による勤務時間減少にの不法行為否定例を、各追加するもの。

【解説】労働判例104455

(1)事件の概要 

原告(以下,「X」)は,護送業務や警備業務等を主な事業内容とする被告テイケイ株式会社(以下,「Y社」)に,期間の定めのない従業員(準社員)として雇用され,警備員として就労していた。
Xの賃金は日給制・時給制であり,毎週火曜日締め,翌週金曜日払いであった。
Y社の警備業務は,1号警備(施設警備)と2号警備(スーパーの駐車場や道路工事等にかかる交通誘導)に分かれ,一般的に,1号警備は安定的に警備業務があり,2号警備のうち補助的勤務となると,勤務日,時間等が不規則となり,残業も乏しい。
Xは,A不動産株式会社中原ビル(以下,「Sビル」)で勤務していたが,同僚らとの仲違いおよび顧客からのクレームを契機として,Y社は,平成18年6月に,Xの配置換えを決定した。
その後,この件に関連して,Xの言動に問題があったため,Y社は,19年6月22日,Xに対し,解雇を通告した(以下,「本件解雇」)。
解雇理由は,総合的にみて信頼関係の回復が難しく雇用継続が困難であるためとされていた。
Xは,Y社を相手に提訴し,本件解雇が違法であるとして不法行為に基づく損害賠償(逸失利益等)を請求し,また,本件解雇および勤務中の勤務数減少その他の言動等の不法行為により精神的苦痛を受けたとして慰謝料も請求している。
本件の争点は,(1)本件解雇の有効性・違法性,(2)Y社からの度重なる差別的な勤務数減少その他の言動による不法行為の成否,(3)Xの損害賠償額である。

(2)判断のポイント 

争点(1)について判決は,Xの業務引継帳への記載,Xへのクレーム,Xのリーダーに対する言動,配属拒絶,勤務配置にかかる言動,上司・同僚への損害賠償請求メール送信,上司への対応,会長への抗議文の送付等,Y社が本件解雇にかかる解雇事由として主張する事項について判旨1のように述べて,本件解雇は,それ自体権利濫用に該当し,不法行為に該当するとした。
判決は,Xの勤務配置にかかる言動については,次のように述べている。
Xは,平成18年11月12日から原則週6日勤務に変更されて以降,Y社に対し,再三にわたり週7日勤務の希望を表明し,勤務予定表にも週7日勤務希望と記載してY社に提出していたのに対し,Y社は,Xに対し,Y社によるXの6日勤務の方針は,労基法の労働時間規制遵守の観点から,労働日数および時間につき週5日(週40時間)勤務に月間残業時間40時間を加えた時間内に抑えるため行っているものであると説明し,同方針を維持したことが認められる。
そして,Y社の同方針にもかかわらず,Xが週7日勤務希望と記載した勤務予定表の提出を継続し,そのためにY社の配置担当者がXの休日の調整を別途することとなったことについては,就業規則31条(服務の原則)8項「会社の方針,諸規定を守り,上司の指示・命令に従うこと」および同条16項「職場内の風紀秩序を常に配慮し,自分勝手な行動をとらないこと」に抵触する側面があることは,否定できないというべきである。
ただし,この点については,「①Xの賃金が時給制であり,勤務日数や勤務時間の減少は,収入減少に直結するものであること,②……原則週6日勤務への変更が,何らの事前説明や協議がされることなく行われ,その後もこの点についてXに対して必要かつ十分な説明がされてはいないこと,③Xは,勤務予定表に週7日勤務を希望する旨記載して提出しつつも,Y社から週6日勤務の方針の維持を伝えられれば,同方針に従って勤務を継続していたものであること,がそれぞれ認められ,これらのことを踏まえると,Xが週7日勤務希望と記載した勤務予定表を提出し続けた主な要因として,Y社が,週6日勤務の方針について,Xの収入減少に直結する重要な労働条件の変更に準じた事柄であるにもかかわらず,その理解と納得を得る手続を踏まなかったことが指摘できるのであって,このような要因に基づくXの行動を解雇事由とすることには,客観的合理性及び社会的相当性があるとはいえない」とした。
判決は,また,Xの上司・同僚への損害賠償請求メール送信については,次のように述べている。
Xが平成18年11月7日にD課長およびSビル同僚らに対して送信した損害賠償請求メールは,同人らに対して高額の損害賠償請求を行うことおよびこれに対して誠意ある対応をとらなければ法的措置を行うことを内容とするものであり,当該内容およびその送信行為自体は,不穏当なものであって,少なくとも就業規則31条(服務の原則)16項に抵触するものと評価せざるを得ないというベきである。
もっとも,Xが損害賠償請求メールの送信に至った経緯にかんがみれば,Xにおいては,Y社からいったんSビル勤務時と比べて収入面その他の労働条件で遜色のないP病院への配置の内示を受けながら,間もなく十分な説明も協議も経ないまま同内示を取り消され,上司の判断次第で2号警備に配置されることとなることを前提とした経済産業省への配置提案を断ると,そのまま2号警備(補助的業務)を継続させられたことにより大幅な減収を余儀なくされたものであって,Xが,これらの減収等の経緯につきSビル同僚やD課長に帰責事由があると考え,損害賠償請求を行うことを決意するに至ったことには,相応の理由があったというべきである。
このことに加え,職場内の風紀が著しく混乱したと認められないことも併せかんがみれば,本件損害賠償請求メールの送信を解雇事由として解雇することにつき,客観的合理性および社会的相当性があるとはいえないとした。
判決は,争点(2)の勤務数減少等の差別的言動について,判旨2のように述べて,Xの主張には理由がないとした。
また,争点(2)の勤務数減少について判決は,判旨3のように述べて,Xについて原則週6日勤務とすることとしたY社の措置自体が違法性を有し,不法行為を構成するとまでは評価できないとした。

(3)参考判例 

使用者は,労基法所定の要件を満たした場合に労働者に時間外労働を命じることができるものであり,労働者に時間外労働を求める権利はない(函館信用金庫事件・函館地判平6.12.22労判665号33頁)。
休日労働についても同様である。
訴訟提起については,同僚とのいさかいをめぐり,いきなり会社に対して訴訟を提起する行為は,組織の融和や自律的な問題解決を図る見地からは,非常識的な行為ということも十分に理由があるといえるが,労働者の非協調的な性格・行動傾向があり,社内で孤立していた様子がうかがわれ,総務課長などを当てにすることができないと考えていたことが認められる状況にある者にとって,自分より上位にある者から強い叱責を受け,社内での解決に頼ることができず裁判手続きによるほかないと考えることは無理からぬものであり,顛末書を提出せず社長の事情聴取に応じないことも無理からぬものがあり,このような状況を会社が理解せず,直ちに懲戒解雇したことは,相当な理由を欠くとしたものがある(第一化成事件・東京地判平20.6.10労判972号51頁)

ロア・ユナイテッド法律事務所「労働法レポート」より 2012/8/20

1 件のコメント: